2025.04.28
AIと著作権とは?クリエイターが知っておくべき最新知識と対策
クリエイターとして活動していると、近年急速に進化するAI技術に対して、「自分の作品がAIに無断で学習されているのでは?」「AI生成物と似た作品を作っていると著作権侵害になる?」といった不安や疑問を抱えていませんか?
AI技術の発展に伴い、著作権の概念も大きく変わりつつあります。特に生成AIの登場により、「創作とは何か」という根本的な問いが投げかけられ、従来の法制度では対応しきれない課題が次々と浮上しています。
本記事では、AIと著作権に関する最新の法的見解や国内外の動向、クリエイターが取るべき具体的な対策までを徹底解説します。自分の作品を守りながらAI時代のクリエイティブ活動を進めるための実践的な情報をお届けします。
目次
AIと著作権の基本|なぜ今、注目されているのか?
AIと著作権の問題が注目を集める背景には、AI技術の急速な進化があります。特に2022年以降、StableDiffusion、DALL-E2、Midjourney、ChatGPTなどの生成AIの登場により、高品質なコンテンツが短時間で生成できるようになりました。
この技術革新は創作活動に多大な影響を与え、様々な法的課題を生み出しています。特に注目すべきなのは以下の3つの問題です。
- AI生成物に著作権が認められるか
- AIの学習データとしての著作物使用は適法か
- AIが生成した作品が既存作品と類似した場合の責任所在
これらの問題は、著作権法が想定していなかった新たな課題であり、世界各国で法整備や判例が形成されつつある状況です。
AIが生成するコンテンツの種類とは
現在のAIは様々なコンテンツを生成することができます。主なものには以下のようなものがあります。
- テキスト:記事、小説、詩、脚本、コードなど
- 画像:イラスト、写真風画像、デザイン、アートワークなど
- 音声・音楽:歌声、ナレーション、楽曲、効果音など
- 映像:短編動画、アニメーション、特殊効果など
- 3Dモデル:キャラクター、建築物、製品デザインなど
これらのコンテンツは、「プロンプト」と呼ばれる指示文に基づいて生成されます。ユーザーの入力内容によって、生成される内容の品質や方向性が変わるため、「人間の関与度」が著作権の判断に大きく影響します。
著作権法における「著作物」の定義
日本の著作権法では、著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(第2条第1項第1号)と定義しています。
著作物の定義の要点は以下の3つです。
- 思想・感情の表現であること:
単なる事実やデータではなく、人間の思想や感情が表現されていること - 創作性があること:
ありふれた表現ではなく、作者独自の創意工夫が認められること - 文芸、学術、美術、音楽の範囲に属すること:
表現形式に該当すること
この観点から見ると、AIが自動で生成したコンテンツは、人間の思想や感情を「表現」したものとは言いづらく、著作物に該当しない可能性が高いとされています。
一方で、人間がプロンプトの設計や編集、複数出力からの創作的選択を行った場合、その「人間の関与部分」に著作権が認められるケースもあります。
人間の創作性とAIの違いとは?
著作権法上、作品が「著作物」として保護されるかどうかは、創作性の有無に大きく依存します。人間による創作とAIによる生成には、以下のような本質的な違いがあります。
このように、AI生成物は「人間の意図」や「感情」が欠如しがちなため、著作物性を認めるには慎重な判断が必要です。
AI生成物に著作権は認められるのか?
AI生成物の著作権については、世界各国で見解や法的アプローチが異なります。ここでは、日本と海外の状況を比較し、著作物性が認められる条件について解説します。
日本の法制度と文化庁の公式見解
日本では、2023年に文化庁が「AI生成物と著作権制度に関する主な論点」を公表し、基本的な考え方を示しました。その要点は以下の通りです。
- AI生成物そのものは、原則として「著作物」とは認められない。
ただし、人間が創作的に関与した場合には、著作物として認められる可能性がある。 - そのため、AIを「ツール」として使い、創作的な選択や編集が加えられた部分には、ユーザーに著作権が帰属する可能性がある。
なお、どの程度の関与が「創作的」とみなされるかについては、明確な基準が存在しておらず、今後の運用や判例によって解釈が変わる可能性があります。
米国・EUなど海外の法的対応と比較
AI生成物に対する法的アプローチは国によって異なります。以下に日本・米国・EUの比較をまとめます。
アメリカでは米国著作権局(USCO)が2022年に「完全にAIが生成した作品には著作権を付与しない」という方針を明確にしています。一方で、人間の創作的な貢献がある場合には、その部分に対して著作権が認められる可能性があるとしています。
EUでは、「独自の知的創作性」を基準としており、人間の創作的な選択や配置があれば保護される可能性があります。ただし、EU加盟国間でも対応に差があり、統一された見解はまだ形成されていません。
このように、いずれの国でも「AIだけが作成したもの」に対して著作権を認めることには消極的で、人間の関与が法的な鍵を握っています。
AI生成物が著作権を認められるケースの条件
AI生成物に著作権を主張したい場合、どのような条件を満たせば「著作物性」が認められる可能性があるのでしょうか。以下は文化庁や各国の見解をもとにした判断基準です。
- プロンプトの創作性:詳細かつ独創的なプロンプト設計
- 選択と調整の創作性:複数の生成結果から創作的な選択を行う
- 後編集の創作性:生成物に対して実質的な修正や加工を行う
- 組み合わせの創作性:複数のAI生成物を創作的に組み合わせる
これらの要素を証明できる記録(プロンプトの履歴、編集作業のログ等)を残しておくことで、著作物性を主張する際の裏付けとなります。
著作権申請事例と承認・否認されたケース
世界的に見ると、AI生成物の著作権申請に対する判断事例が徐々に蓄積されています。
ここでは、米国の例を参考に認められたケースと否認されたケースを紹介します。
認められたケース(米国)
2023年2月、アメリカの作家クリス・カッソン氏は、Midjourney生成画像を使用した絵本「ZaryaoftheDawn」の著作権登録を部分的に認められました。米国著作権局は、AI生成された画像そのものは著作権保護の対象外としつつも、テキスト部分や画像の選択・配置などの人間の創作的要素については著作権を認めました。
このケースは、「AI生成物を素材として使用した作品」に著作権が認められた事例として注目されています。ただし、AI生成画像そのものには著作権が認められなかった点が重要です。
日本のアプローチについても、基本的には「人間の創作的関与」がどれだけあるかが判断基準となります。文化庁の見解では、AIをツールとして活用して人間が創作的関与を行った作品については、その人間に著作権が認められる可能性があるとしています。
否認されたケース(米国)
2022年、アメリカの芸術家であるジェイソン・アレン氏は、Midjourneyで生成した「ThéâtreD’opéraSpatial」という作品でコロラド州のアート・コンテストで1位を獲得しましたが、米国著作権局は同作品の著作権登録を拒否しました。
理由として、「完全にAIによって生成された部分には人間の著作性がない」ことが挙げられました。AIに与えたプロンプトや選択作業は「著作権法で保護されるレベルの人間の創作性」には達していないと判断されたのです。
この決定は、AIに対する指示や選択のみでは著作権が認められないことを示す、米国著作権局の明確な方針を表した重要な事例です。
著作物性を認めるための要素チェックリスト
AI生成物に著作権を主張したい場合、以下の要素を意識することが重要です。
□ 複数の生成結果から創作的な選択を行ったか
□ 生成された作品に対して実質的な修正や加工を行ったか
□ 複数のAI生成物を創作的に組み合わせたか
□ 制作過程の記録(プロンプト、生成結果、編集内容等)を保存しているか
□ 人間の創作的貢献を明確に説明できるか
これらの要素が多く満たされるほど、著作物性が認められる可能性が高まります。
参照:
AI生成物の著作権はどこまで守られる?米国著作権局の最新レポートに見る新たな指針
米国、EU、日本におけるAI生成作品に関する著作権法の比較分析
AI創作の著作権登録を否定(米国)
AIによる著作権侵害のリスクと現実
AIを使用する側であっても、知らず知らずのうちに他人の著作権を侵害するリスクが存在します。以下に、主なリスクと実際の事例を紹介します。
学習データに既存作品を使用するリスク
生成AIは、多くの場合、ネット上に存在する膨大な画像・文章データを学習に使用しています。その中には著作権で保護されている作品も多数含まれており、許諾なく使用された場合は複製権の侵害に該当する可能性があります。
この問題に関して、法的な論点は以下の通りです。
- 学習データとしての使用は複製権侵害になるか:
データの一時的な保存や処理は「複製」に当たるか - 著作権の制限規定(フェアユース等)が適用されるか:
研究目的や私的利用の範囲と見なせるか - 派生作品の問題:
学習データの特徴を反映したAI生成物は二次的著作物と見なされるか
日本では2018年の著作権法改正により、「情報解析目的」での著作物利用が認められるようになりました(第30条の4)。しかし、商業目的の大規模なAI学習が同条の趣旨に合致するかどうかは未だ議論の余地を残しています。
実在する著作物と類似したAI生成物のリスク
AIが生成した作品が既存の作品と実質的に類似していた場合、著作権侵害と判断されることがあります。そのため、以下の要素を考慮することが必要です。
- 実質的類似性:
表現の独自性が似通っているか - アクセス可能性:
当該著作物がAIの学習データに含まれていた可能性 - 創作的表現 vs アイデア:
著作権保護の対象は「表現」であり、単なるアイデアや概念は保護対象外
実際の著作権侵害訴訟の事例と論点
現在、AI開発企業に対する著作権侵害訴訟が世界各地で提起されています。代表的な事例として以下のものがあります。
- GettyImages対StabilityAI訴訟
- GettyImagesは、StabilityAI(StableDiffusionの開発企業)が許諾なく自社の画像を学習データとして使用したとして訴訟を提起。ウォーターマークの再現など具体的な侵害の証拠を提示しています。
- SarahAndersen他対StabilityAI等訴訟
- 複数のアーティストが、自分たちの作品が許諾なくAI学習に使用されたとして集団訴訟を提起。特に、特定のアーティストのスタイルを模倣できる機能に対して批判しています。
- ニューヨーク・タイムズ対OpenAI・Microsoft訴訟
- ニューヨーク・タイムズは、ChatGPTが自社記事の内容を詳細に再現できることを問題視し、著作権侵害として提訴しています。
これらの訴訟の主な論点は以下の通りです。
- 学習データとしての使用は「フェアユース」に該当するか
- AI生成物が特定の著作物に酷似している場合の責任
- 著作権保護技術(ウォーターマークなど)を回避した学習の違法性
これらの訴訟は現在も係争中であり、今後の判決が著作権とAIの関係を左右する重要な指針となる可能性があります。
参照:
Photo giant Getty took a leading AI image-maker to court. Now it’s also embracing the technology
Top Takeaways from Order in the Andersen v. Stability AI Copyright Case
OpenAI vs. NYT訴訟で新展開:150時間分の証拠データ消失、AI著作権問題の行方は
使用者・提供者・開発者の責任範囲とは
AIによる著作権侵害が生じた場合、関係者の責任範囲は明確に定まっていません。そのため、一般的には以下のように考えられています。
関係者 | 責任の可能性 | 責任範囲の考え方 |
---|---|---|
AI使用者 | 直接責任 | 生成されたコンテンツを確認する義務と、AIへの適切な指示を行う責任 |
AIサービス提供者 | 間接責任/共同責任 | 適切なガイドライン提示、モニタリング義務 |
AI開発者 | 間接責任 | 適法なデータ収集、権利処理の実施 |
AIを利用する側としては、「AIが生成したから」という理由で責任を免れることはできません。生成された内容を確認し、必要に応じて修正や権利処理を行う責任があります。
クリエイターがとるべき著作権対策と注意点
AI時代において、自分の作品を無断使用や著作権侵害から守るためには、積極的な自己防衛策が必要です。以下に実践的な対策を紹介します。
著作権・ライセンスを明示
自分の作品がAIに無断で学習されることを防ぐためには、作品に著作権表示やライセンス条件を明確に記載することが重要です。
【具体的な対策】
- 著作権表示の徹底
©2025 [作者名] All Rights Reservedのように、表記に一貫性を持たせて作品に明記する。 - クリエイティブ・コモンズの活用
CC BY-NC-ND(改変・商用利用・AI学習不可)などの適切なライセンスを選択する。 - メタデータの埋め込み
画像や音声ファイルにメタデータとして著作権情報を埋め込む。 - 透かしの活用
目に見える/見えない透かしを入れて、無断使用を検出しやすくする。
特に近年は、「Do Not AITrain」や「No AI」などの明示的な表示を作品に付けるクリエイターも増えています。これにより、少なくとも倫理的なAI開発者は学習対象から除外するケースが増えています。
契約書やガイドラインで利用制限を明記
商業的な作品提供や委託制作の場合は、契約書やガイドラインでAI学習に関する制限を明記することが重要です。
【具体的な対策】
- 契約書条項の追加
「本作品をAI学習データとして使用することを禁止する」などの条項を追加 - 利用規約の明確化
Webサイトや販売プラットフォームの利用規約でAI学習の可否を明記 - 許諾範囲の限定
「人による鑑賞のみを目的とし、機械学習には使用しない」などの制限を設ける - 違反時の対応を明記
無断使用された場合の賠償額や対応手順を予め定めておく
これらの対策を行うことにより、法的な抑止力を高めることができます。
作品が無断使用された場合の対応フローの構築
万が一、自分の作品がAIに無断で使用された場合に備えて、対応フローを事前に構築しておくことが重要です。
【対応フローの例】
- 証拠の収集
- 問題となるAI生成物のスクリーンショットや保存
- 自分のオリジナル作品との比較資料作成
- タイムスタンプ付きの証拠確保(公証サービスの活用等)
- 連絡・通知
- AI開発者/提供者への侵害通知(DMCA等)
- 侵害者への停止要請
- プラットフォーム運営者への通報
- 交渉・解決
- 停止・削除要求
- ライセンス料の請求
- クレジット表示の要求
- 法的対応
- 弁護士への相談
- 内容証明の送付
- 訴訟の検討
このフローを事前に準備しておくことで、問題発生時に迅速かつ効果的に対応できます。
著作権保護ツール・AIの活用方法
著作権保護のためのツールやテクノロジーも進化しています。以下のようなツールを活用することで、作品の保護を強化できます。
- 画像保護ツール
- Pixsy:無断画像使用を自動検出するサービス
- Binded:ブロックチェーンを活用した著作権管理
- ImageRights:画像検索と著作権侵害対応支援
- 透かし・改ざん検出技術
- Adobe Photoshop:コンテンツ認証機能
- Digimarc:目に見えない透かし技術
- AI学習防止用ノイズ付加ツール(Glaze、Nightshadeなど)
- 著作権登録・管理サービス
- 著作権登録支援サービス
- ブロックチェーン技術を活用した作品登録サービス
- タイムスタンプ証明サービス
これらのツールを組み合わせて利用することで、著作権保護の実効性を高めることができます。
生成AI利用者が確認すべき注意点
AI生成物を利用する側としても、著作権侵害を防ぐための注意点があります。
確認すべき注意点は、以下の5つです。
- 利用規約の確認:
使用するAIサービスの利用規約で、生成物の権利関係を確認する - 生成結果の確認:
既存作品との類似性がないか確認する - 学習データの確認:
可能であれば、AIの学習データが適法に収集されたものか確認する - 適切なクレジット:
生成AIの使用を明示し、必要に応じて元となった作品をクレジットする - 商用利用の確認:
商用利用可能かどうかを利用規約で確認する
特に商業利用の場合は、万が一の権利侵害に備えて、権利関係を丁寧に確認することが重要です。
AI時代における収益とクレジットの保護
AI時代には、著作物の「無断学習」や「スタイルの模倣」によって、クリエイターの収益やクレジット表示が損なわれるリスクがあります。ここでは、報酬の仕組みやクレジット表示の確保について解説します。
作品がAI学習に使われた場合の報酬の仕組み
現状では、作品がAI学習に使用された場合の報酬体系は確立されていません。しかし、今後整備される可能性のある仕組みとしては、以下のような事例のように整備も始まっています。
Adobe Firefly(Adobe Stockとの連携)
Adobeは、Adobe Stockで提供される画像を生成AIの学習に使用し、クリエイターに報酬を還元する制度を導入しています。
これは、学習段階における許諾と報酬の支払いが実現された最初の大規模事例といえます。
Shutterstock × OpenAI パートナーシップ
Shutterstockは、自社コンテンツをOpenAIなどに提供し、使用に応じてクリエイターに報酬を分配する仕組みを整えています。
分配モデルの詳細は非公開だが、学習データ提供に対して収益化の一部を共有するビジネスモデル
さらに以下のような報酬モデルが考えられます。
- 一括ライセンス料方式:
学習用のデータセットに含める際に一括で使用料を支払う - 利用度に応じた従量制:
AIが特定の作品の特徴を強く反映した生成を行った場合に支払い - 収益分配方式:
AI生成サービスの収益の一部をクリエイターに分配 - クレジット・ポイント制:
使用度に応じてポイントを付与し、後に現金化できる仕組み
現時点ではまだ実験段階ですが、一部のAI企業では権利者への対価支払いを始めています。
AIプラットフォームのクリエイター報酬制度
一部のAIプラットフォームでは、クリエイター向けの報酬プログラムを開始しています。
- Midjourney:
権利者向けに作品使用の対価を支払うシステムを検討中 - AdobeFirefly:
Adobeストックの画像を活用し、クリエイターに報酬を分配 - ShutterstockAI:
コントリビューターの作品がAI学習に使用された場合の補償制度を導入
これらの取り組みは始まったばかりですが、今後AIと権利者の共存モデルとして発展していく可能性があります。
クレジット表示を確保するには
AIが自分の作品の特徴を反映した生成物を作成した場合、適切なクレジットを確保することも重要です。以下では、クレジットを確保するための対策を紹介します。
【クレジット確保のための対策】
- メタデータの活用:
作品にメタデータとしてクレジット情報を埋め込む - 権利管理情報の付与:
電子透かしなどでクレジット情報を付与 - AIプラットフォームとの協力:
正規のデータセット提供の際にクレジット表示を条件とする - 引用検出技術の活用:
AIが特定の作品の特徴を強く反映した場合に検出する技術
特に「AIによるスタイル模倣」に対するクレジットは、まだ十分な対策が確立されていない課題です。
自分の著作権を主張する方法と証拠管理
自分の著作権を適切に主張し、保護するためには、作品の証拠管理が重要です。証拠管理のための4つの方法は以下の通りです。
【証拠管理の具体的な方法】
- 制作過程の記録
- 作品の制作過程を段階的に記録する
- ラフスケッチや初期バージョンを保存する
- 使用したツールやソフトウェアの記録を残す
- タイムスタンプ付き保存
- 電子署名付きPDFとして保存
- 電子公証サービスの利用
- ブロックチェーン技術を活用した作品登録
- 公的な登録
- 著作権登録(米国など登録制度のある国)
- 作品を含む契約書の保管
- 業界団体を通じた作品登録
- 発表記録の保管
- 発表・公開の日時と媒体の記録
- SNSでの投稿記録
- 第三者による証明(公開イベントなど)
これらの証拠は、著作権侵害が発生した際に自分の権利を主張するための重要な資料となります。
最新の法的ガイドラインと今後の制度改正動向
AIと著作権に関する制度は、国内外で急速に整備が進められています。今後、クリエイターとして意識しておきたい主な動きは以下の通りです。
文化庁の「AIと著作権に関する考え方」のポイント
文化庁は2023年、「AIと著作権制度に関する主な論点」を公表し、日本におけるAIと著作権に関する基本的な考え方を示しました。主なポイントは以下の通りです。
- AI生成物の著作物性
- AI生成物そのものは原則として「著作物」に該当しない
- 人間の創作的関与があれば著作物となる可能性がある
- 「人間の創作的寄与」の程度は個別事例ごとに判断される
- 学習データとしての著作物利用
- 情報解析目的での著作物利用は権利制限の対象(著作権法第30条の4)
- 商業目的の大規模AIモデル学習については今後検討が必要
- 権利処理の在り方
- 拡大集中許諾制度など新たな権利処理スキームの検討
- AIデータセット構築における権利処理の円滑化
文化庁の見解は、あくまで現行法の解釈を示したものであり、今後の技術発展や社会状況の変化に応じて見直される可能性があります。
著作権法改正の動向と議論の焦点
日本では、AIの発展に対応するための著作権法改正が議論されています。主な論点は以下の通りです。
これらの論点については、文化審議会著作権分科会で継続的に議論されています。
国際的なルール整備とその課題
AI著作権問題は国境を越えた課題であり、国際的なルール整備も進められています。
ここでは、国際的にどのようにルールが整備されているのかを紹介します。
- WIPO(世界知的所有権機関)の取り組み
- AI生成物の著作権に関する国際会議の開催
- 加盟国間の法制度の調和に向けた議論
- 米国の動向
- 米国著作権局による「人間の著作性」に関するガイドライン更新
- AIと著作権に関する公聴会の実施
- EUの動向
- AI規制法(AIAct)における創作物の取り扱い
- データベース指令の見直し
- 国際的な課題
- 法制度の国際的な調和の難しさ
- 国境を越えたAIサービス提供における法適用
- 権利侵害の国際的な救済メカニズムの不足
国際的なルール整備は始まったばかりであり、各国の異なる法体系や文化的背景を踏まえた調整が必要となっています。
将来的な方向性と予測される影響
AIと著作権の関係は今後も発展していくと予測されます。将来的な方向性として以下のようなものが考えられます。
これらの変化に対応するためには、クリエイター自身も法制度の動向に注目し、自らの権利を守るための知識を更新し続けることが重要です。
他のクリエイターはどう対応しているか?|事例紹介
AI技術の急速な進化により、クリエイターたちは「創作の自由」と「権利の保護」のバランスを模索する時代に入っています。
実際のクリエイターたちは、AIの普及にどのように対応しているのでしょうか。分野別の対策事例を紹介します。
イラストレーターの対策事例
イラストレーターたちは、自身の作品が無断でAIの学習素材に利用されるリスクに対し、積極的な防御手段を講じ始めています。
単に著作権表示を行うだけでなく、技術的に“AI学習からの保護”を目的とした手法(GlazeやNightshadeなど)を取り入れる動きが拡大しています。
透かしやノイズパターンの活用
多くのイラストレーターは、AIによる学習を妨げるための技術的対策を講じています。
- Glaze技術の活用:
シカゴ大学が開発したAI学習防止技術を用いて、目に見えない「スタイル保護層」を作品に適用 - Nightshade:
AI学習に悪影響を与える「毒」を作品に埋め込む技術 - 独自の透かし:
作品に独自の透かしパターンを入れ、無断使用を検出しやすくする
これらの技術は、直接的な複製からの保護だけでなく、スタイルの模倣からも作品を守ることを目的としています。
文化庁の取り組み
出典:文化庁
国としての対応も進みつつあり、文化庁はAIと著作権に関する実務的な指針の提供を開始しました。
「クリエーターのための著作権ハンドブック」では、AI学習に関するオプトアウト方法、著作権表示のベストプラクティス、侵害時の対処フローが具体的にまとめられており、多くのクリエイターが実務に活用しています。
こうした制度的整備と現場での工夫が連動することで、AI時代における創作環境の持続可能性が確保されつつあります。
写真家・映像作家の対策事例
写真・映像業界では、「無断転載」や「AI学習への無許可利用」といったリスクに対する制度的・契約的な防衛策が急速に整備されています。
特に日本写真著作権協会(JPCA)による声明や支援ツールは、写真家の権利保護とライセンス運用の明確化に貢献しており、プロフェッショナルの間で実務対応の標準化が進んでいます。
日本写真著作権協会の声明
出典:日本写真著作権協会
日本写真著作権協会(JPCA)は、AIによる写真の無断使用に対して明確な声明を発表しています。主な内容は、
- 写真作品のAI学習データとしての利用には明示的な許諾が必要
- 「報道」「批評」などの例外的な利用を除き、商業利用には適切な対価が必要
- 写真家の著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権など)の尊重
JPCAは会員向けに、AI時代に対応するための契約書テンプレートや、使用許諾の際の留意点なども提供しています。
広告写真家の視点
商業写真家、特に広告写真の分野では以下のような対応が見られます。
- 撮影前の契約書改訂:
AI学習への使用制限を明記 - メタデータの徹底活用:
全ての写真に詳細なメタデータを付与 - 限定的ライセンスの活用:
期間・用途・媒体を限定したライセンス形態へのシフト - 透かし技術の導入:
電子透かしを入れて追跡可能性を高める
特に商業利用の多い写真家は、契約書の見直しを積極的に行っており、「AIによる学習・生成は別途許諾・料金が必要」という条項を加えるケースが増えています。
音楽家・作曲家の対策事例
音楽業界でも、AIが特定アーティストの作風を学習・模倣することに対して、著作権だけでなく“人格権”の観点からも懸念が広がっています。
JASRACはAI開発企業との対話を進める一方、「楽曲のAI学習が編曲や複製に該当し得る」との法的視点を明確に示しており、業界全体での対応指針づくりが進んでいるのも特徴です。
JASRACの懸念
出典:JASRAC
日本音楽著作権協会(JASRAC)は、AI音楽生成に対して以下のような懸念を表明しています。
- AIによる楽曲生成が「編曲」に該当する可能性
- AIに学習させるための楽曲利用が著作権侵害となる可能性
- AIが特定のアーティストのスタイルを模倣することによる人格権侵害の可能性
JASRACは、AI開発企業との対話を進めながら、著作権保護と技術革新の両立を模索しています。
「Created by Humans」の取り組み
「CreatedbyHumans」は、人間のクリエイターによる作品であることを明示するためのプロジェクトです。音楽家を含む様々なクリエイターが参加し、
- 「人間によって作られた」ことを示すロゴやバッジの作品への付与
- 制作過程の透明性確保(メイキング動画の公開など)
- 人間ならではの創造性や感性をアピール
このような動きは、AIとの差別化を図り、人間のクリエイターの価値を再確認する取り組みとして注目されています。
参照:
イラストのai対策について|ノイズ・透かしの入れ方
AI生成コンテンツと著作権問題:文化庁がAIイラストレーターによる著作権侵害事例の収集に乗り出しました。
生成AIに対するクリエイター団体・企業などの反応・対応
AI作曲の音楽と著作権法JASRACの懸念と対応の現状
生成AIの著作権問題に対応!「CreatedbyHumans」が提供するライセンス管理と収益化の新時代|生成AI活用事例
事例から学ぶ!成功する権利保護のポイント
様々な分野のクリエイターの取り組みから、成功する権利保護のポイントを抽出すると、以下のような共通点が見えてきます。
技術的対策
- 予防的対策の重視:
侵害後の対応より、事前の保護策を重視 - 多層的な保護:
透かし、メタデータ、ノイズなど複数の技術を組み合わせる - 定期的なモニタリング:
自動検出ツールを活用した継続的な監視
法的整備とプラットフォーム活用
- 契約書の見直し:
AI時代に対応した契約条項の追加 - 明確なライセンス表示:
クリエイティブ・コモンズなど標準的なライセンスの活用 - プラットフォームの機能活用:
各種SNSやポートフォリオサイトの著作権保護機能の積極利用
業界団体との連携
- 集団的な取り組み:
個人での対応には限界があるため、団体での活動が効果的 - ガイドラインの整備:
業界団体を通じた統一的なガイドラインの策定 - 政策提言:
著作権法改正などに向けた働きかけ
これらの対策を組み合わせることで、AIの普及に対応しながらも自分の権利を守ることができます。重要なのは、技術的・法的・社会的アプローチを多角的に組み合わせ、状況の変化に柔軟に対応することです。
まとめ
生成AIの急速な普及により、著作権に関する新たな課題が次々と浮上しています。
AI生成物は原則として著作物と認められない一方で、人間の創作的関与があれば保護の対象となる可能性があるため、クリエイターにはこれまで以上に高度な知識と対応力が求められます。
制度やツールの進化は日進月歩であり、自力で正しい対応を判断するのは困難な場面もあるでしょう。そうした場合には、AI活用や著作権リスクに詳しい専門会社への相談が安心です。著作権対策とAI活用を両立したい方は、malna株式会社までお気軽にご相談ください。
AIとクリエイティブが共存するこれからの時代、作品と権利を守るための一歩を、今日から踏み出しましょう。