2026.10.12

AI

タクシー業界のAI活用事例!電話受付や乗務記録を効率化する方法

「乗務員が減って、配車センターの電話を取りきれない」
「乗務記録や日報の整理に、事務の時間が毎日取られる」

AIエージェント導入支援

こんなお悩みはありませんか。

AI配車の話は耳にしても、自社の電話や書類のどこに使えるのかは分かりにくいですよね。

この記事では、タクシー業界のAI活用事例と、電話受付や乗務記録の負担を減らす進め方をわかりやすく解説します。

自社のどの業務からAIを使うかの整理は、malnaのAIエージェント構築支援でご相談いただけます。

タクシー業界でAI活用が進む背景

タクシー業界のAI活用とは、配車、電話予約、乗務記録、採用、安全教育といった業務の一部を、AIに処理させて人の作業時間を減らす取り組みです。

背景には、乗務員の減少と、人件費の重さがあります。

国土交通省の資料では、法人タクシーの運転者数は、平成27年度の29.6万人から令和4年度の20.9万人に減りました。

7年間で、約3割の乗務員がいなくなった計算です。

同じ資料によると、令和4年度のタクシー運転者の年間所得は361万円で、全産業平均の約7割です。

賃金の面でも、新しい乗務員を集めやすい業界とは言えません。

国土交通省の「タクシーの運賃・料金について」では、タクシーの原価のうち人件費が73.6%を占めます。

数字は、ハイヤー・タクシー年鑑の平成27年度の内訳で、資料に載っている参考値です。

原価の大半が人件費なので、人を増やして人手不足を埋めると、費用がそのまま増えます。

乗務員を増やす代わりに、配車担当や事務の作業をAIで減らす会社が出てきました。

また、令和4年3月末の時点で、法人タクシーの会社のうち、車両10両以下の会社と従業員10人以下の会社が、それぞれ約6割を占めます。

小さな会社で配車担当が電話受付と事務を兼ねる場合、1人が抱える作業の種類が多くなります。

AIを入れるときも、大手と同じ仕組みを作るのではなく、兼務している作業のうちどれを減らすかから考えるのが現実的です。

タクシーの業務で使われるAIは、何を処理するかで4つの種類に分けられます。

AIの種類 処理すること タクシーの業務での使い道
予測するAI 過去の記録から、先の需要を予測する 需要予測を使った配車
音声で応じるAI 電話の声を聞き取り、音声で答える 電話予約の受付
生成AI 指示に応じて文章を作る 求人文、教材、回答文の下書き
AIエージェント 決められた手順で、読み取り・確認・作成を続けて処理する 予約の記録、乗務記録の確認

生成AIとは、質問や作業の指示に応えて、文章や画像を新しく作るAIのことです。

個人情報保護委員会も、生成AIサービスを、指示の入力に応えて文章や画像を生成するAIを利用したサービスと説明しています。

予測するAIは、多くの車両の記録を集めた会社ほど精度を上げやすいAIです。

生成AIとAIエージェントは、自社の日報の様式や規程があれば、中小のタクシー会社でも使い始められます。

参考:タクシー事業の概要や事故の状況等について(統計資料等)|国土交通省 関東運輸局

参考:タクシーの運賃・料金について|国土交通省

参考:生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について|個人情報保護委員会

AIを活用できる5つの業務

タクシー会社でAIを活用できる業務は、配車、電話予約、乗務記録、採用、安全教育の5つで、AIが受け持つ作業と、時間が減る担当者が業務ごとに違います。

どの業務も、AIの結果を人が確かめる作業は残るため、減る時間と確かめる時間の両方を見て選びます。

  • 需要予測を使った配車は、配車アプリの会社が機能として提供している
  • 電話予約の受付で、取り逃しと配車担当の手間を減らす
  • 乗務記録の整理で、事務の転記と確認の時間を減らす
  • 乗務員の採用活動で、求人文や面接日程の連絡を早くする
  • 安全教育の資料づくりで、運行管理者の資料作成の時間を減らす

次の表は、業務ごとに作業時間が減る人と、AIが処理することです。

業務 作業時間が減る人 AIが処理すること
需要予測を使った配車 乗務員、配車担当 乗車が多そうな場所と時間を示す
電話予約の受付 配車担当 迎車地や名前を聞き取り、記録する
乗務記録の整理 事務、運行管理者 記録の転記、抜けや食い違いの検出
乗務員の採用活動 採用担当、経営者 求人文の下書き、応募者への連絡文の作成
安全教育の資料づくり 運行管理者 事故の傾向から教材の下書きを作る

需要予測を使った配車

需要予測を使った配車は、過去の乗車の記録や天気、時刻から、乗車が多そうな場所と時間を予測し、空車の車両を向かわせる使い方です。

乗務員が経験だけで流す場所を決めるより、空車で走る時間を短くできる可能性があります。

需要予測と配車は、GOやS.RIDEのような配車アプリの会社が、自社のサービスの機能として提供しています。

予測には、多くの車両の走行記録と、利用者の注文の記録が必要です。

配車アプリの会社は、加盟する多くの車両の記録をまとめて予測に使っています。

電話予約の受付

電話予約の受付は、利用者からの電話を受け、迎車地、名前、希望時刻を聞き取って配車につなぐ業務です。

配車アプリを使わない利用者や、病院、ホテルからの予約は、電話で受けることになります。

配車担当が1人で電話を受けていると、同時にかかってきた電話を取り逃がします。

AIを使うと、電話の聞き取りと記録をAIが受け持ち、配車担当は確認と例外の対応に時間を使えます。

AIを使う前と後で、電話予約の流れは次のように変わります。

段階 AIを使う前 AIを使った後
電話を受ける 配車担当が受け、重なった電話は取り逃がす 設定した同時受付数の範囲で、AIが一次対応する
聞き取り 配車担当が迎車地と時刻をメモする AIが迎車地、名前、時刻を聞いて記録する
配車 配車担当がメモを見て車両を手配する 配車担当が記録を確かめて手配する
例外 配車担当が電話口で答える 聞き取れない電話を配車担当に回す

いきなり電話をAIに受けさせるのが不安な場合は、通話の録音から予約記録を書き起こす作業だけをAIに任せる方法もあります。

病院の送迎で車いすを使うかを聞くなど、得意先ごとの聞き取り項目も予約記録の様式に入れておきます。

電話をAIに受けさせる前に、次の3つを決めておきます。

  • AIが書いた予約を、いまの配車の台帳や配車システムに載せられるか
  • 住所を聞き取れない電話や、苦情、忘れ物、事故の連絡を人に回す基準
  • 電話回線やAIのサービスが止まったときに、配車担当が受ける手順

関連記事:コールセンターのAI活用事例!できることと導入の進め方を解説

乗務記録の整理

乗務記録の整理は、乗務員ごとの乗務の記録を集め、抜けや食い違いを確かめて保存する業務です。

タクシー会社には、旅客自動車運送事業運輸規則で、乗務員ごとの業務の記録を作り、1年間保存する義務があります。

紙の日報や運賃メーターの記録を表計算ソフトに転記している会社では、事務担当の作業が毎日発生します。

AIは、手書きの日報を読み取った文字の転記や、記録と記録の食い違いの検出に使えます。

AIに確かめさせる項目の例は、次のとおりです。

  • 日報の終業時刻と、運賃メーターの記録の終了時刻のずれ
  • 業務を始めたときの走行距離計の数字と、前回の終了時の数字の差
  • 休憩の地点と時刻の書き漏れ
  • 乗客が乗った区間の書き漏れ

AIは、ずれや書き漏れがある行を一覧にし、事務担当は一覧に載った行だけを乗務員に聞き直します。

最終的な記録として残す内容は、人が確かめてから保存します。

参考:旅客自動車運送事業運輸規則|e-Gov法令検索

乗務員の採用活動

乗務員の採用活動は、求人文を書き、応募者に連絡し、面接の日程を決めるまでの業務です。

乗務員が減っている会社では、求人を出し続ける必要があり、採用担当や経営者の作業が増えます。

AIは、求人文の下書き、応募者への返信文、面接日程を伝える文の作成に使えます。

下書きを作らせるときは、次のような自社の条件を文章で渡します。

  • 隔日勤務、日勤、夜勤など、選べる勤務の形
  • 給与の計算方法と、固定給と歩合の割合
  • 二種免許の取得にかかる費用を会社が負担するかどうか
  • 入社後の研修の日数と内容

条件を一度まとめておけば、求人サイトや自社サイトなど、掲載先ごとの文字数に合わせた下書きを作れます。

給与や勤務条件の数字は、AIの下書きをそのまま出さず、採用担当が元の条件と照らしてから載せます。

応募者への返信や面接日程の連絡は、文面を型にしておくと、AIが応募者ごとに名前と日時を入れた文を作れます。

返信を送る前に、採用担当が日時と宛先を確かめます。

安全教育の資料づくり

安全教育の資料づくりは、運行管理者が乗務員に向けて、事故の傾向と防ぎ方を伝える教材を作る業務です。

国土交通省 関東運輸局の資料では、令和5年の全国のタクシーの事故は、空車時が実車時の約3倍多く発生しています。

同じ資料では、令和5年の全国のタクシーの事故の約72%が他車との事故です。

死亡事故に限ると、約61%が人との事故です。

資料では、全国の空車時の事故のうち、相手が自転車や歩行者の事故が全体の約50%を占めると示しています。

空車で乗客を探しているときに、自転車や歩行者との事故が起きやすいという傾向は、教材で伝える内容になります。

AIに、事故統計の資料と自社のヒヤリハットの記録を渡すと、乗務員向けの教材の下書きを作れます。

ヒヤリハットとは、事故には至らなかったものの、危ないと感じた出来事のことです。

自社の営業区域の交差点名や時間帯を入れた教材にすると、乗務員が自分の運転と結びつけて読めます。

教材の内容が統計と合っているかは、運行管理者が元の資料と照らして確かめます。

AIが作るのは教材の下書きで、乗務員への指導と指導の記録は、運行管理者が行います。

参考:タクシー事業の概要や事故の状況等について(統計資料等)|国土交通省 関東運輸局

AIを活用できる5つの業務

タクシー会社のAI活用事例

タクシー会社のAI活用事例として、配車アプリの会社による需要予測と予約、配車センターの電話受付、サービスの終了の4つを取り上げます。

成果の数字だけでなく、AIがどの作業を受け持ったかと、サービスを続けられなかった例からわかる注意点を、自社に当てはめて読みます。

  • GOのAI予約で、指定の時刻に合わせて車両を探す
  • S.RIDEの需要予測で、配車の成功率を上げる
  • newmoのAI音声配車で、配車センターの電話をAIが受ける
  • NTTドコモの需要予測サービスの終了から、単独のサービスに頼る危うさを知る

4つの事例のうち3つは配車アプリの会社や、配車センターを持つグループによる取り組みです。

中小のタクシー会社は、事例と同じものを作るのではなく、AIが受け持った作業と、効果を測った数字の取り方を自社に当てはめます。

数値は、各社が公表したものです。

事例 AIが処理すること 公表されている数値
GOのAI予約 指定時刻の前後に手配できる車両の数を計算する 従来の10倍以上の依頼に対応
S.RIDEの需要予測 需要予測をもとに配車の方法を改善する 配車成功率95%
newmoのAI音声配車 電話を受け、迎車地や名前を聞いて配車まで処理する 着信全体の45.5%をAIのみで配車
NTTドコモのAIタクシー 未来の乗車需要を予測して配信する 2022年6月15日にサービス終了

GOのAI予約

GOのAI予約は、利用者が希望の日時を指定すると、GOが利用者に代わって空車の車両を探すサービスです。

GOは、AIによるリアルタイムの需給予測を使い、従来の10倍以上の依頼に対応できるようになったと公表しています。

AIが、指定時刻の前後に手配できる車両の数を計算してから注文を受ける方式です。

予約は、最短15分後から7日後までの日時を指定できます。

GOは、指定時間に配車を確約するものではないとも明記しています。

AIの予測を使っても、空車の状況や道路の混み具合によっては、希望に添えない場合があるということです。

AI予約は利用者がGOのアプリから注文するため、タクシー会社の配車担当が電話で予約を聞き取る作業は生じません。

参考:AI予約|GO

S.RIDEの需要予測

S.RIDEは、ソニーのAI技術を使った需要予測などで、配車の方法を改善している配車アプリです。

S.RIDEは、AI需要予測を活用して、配車成功率95%を公表しています。

数字は、2024年9月から12月の、利用者ごとの配車成功率です。

公式サイトでは、東京都内のタクシーの3台に1台がS.RIDEに対応していると示しています。

需要予測の精度は、配車アプリに加盟する車両の数と走行の記録が多いほど上げやすくなります。

参考:タクシーアプリ S.RIDE(エスライド)|タクシーを呼ぶ・予約する

newmoのAI音声配車

newmoのAI音声配車「maido」は、AIが利用者からの電話を受け、迎車地や名前を聞き取り、配車システムに登録して配車まで処理するAI音声配車システムです。

2026年3月25日の発表によると、maidoは大阪エリアの配車センターで、24時間365日体制で運用されています。

同社の発表では、導入前は日々数百件の電話のうち約30%を取り逃がしていました。

導入後は、着信全体の45.5%をAIのみで配車まで処理し、受電率100%を達成したと発表されています。

maidoを使った取り組みは、経済産業省とNEDOが主催するGENIAC-PRIZEの、カスタマーサポートの生産性向上のテーマで第1位を受賞しました。

受賞したのは、newmoとグループ会社の未来都です。

配車センターは、newmoグループの大阪のタクシー会社3社の電話に対応しています。

電話予約の多い地域では、電話の聞き取りをAIが受け持つ効果が数字に表れた事例です。

取り逃がした電話には予約以外の電話も含まれ得ますが、予約を受ける機会を失っていた可能性があります。

自社で電話の取り逃しを数えておくと、AIを入れたときの効果を同じ物差しで比べられます。

参考:newmoと未来都、「タクシー配車業務のAI音声対応」が経産省・NEDO主催「GENIAC-PRIZE」で優勝|newmo株式会社のプレスリリース(PR TIMES)

NTTドコモの需要予測サービスの終了

NTTドコモの「AIタクシー」は、未来のタクシーの乗車需要を予測して配信するサービスでしたが、2022年6月15日に提供を終えています。

NTTドコモは、2021年11月16日に提供終了を発表し、新規の受付を2021年11月30日に終えました。

終了の理由として、配車アプリの急速な普及と、新型コロナウイルス感染症による外出自粛などで、タクシー市場が大きく変化したことを挙げています。

AIの予測サービスは、提供する会社の判断で終わることがあります。

外部のサービスに業務を任せる場合は、終了したときに元の手作業に戻せる手順も残しておきます。

たとえば、配車アプリの予約と電話予約を同じ台帳に記録しておけば、片方のサービスが終わっても予約の記録は手元に残ります。

自社で作るAIでも、AIを止めた日に人が同じ作業をできるよう、作業の手順書を更新し続けます。

参考:未来のタクシー乗車需要を予測する「AIタクシー」の提供終了について|NTTドコモ

AIエージェント導入支援

配車アプリを使う業務と自社で作る業務

タクシー会社のAI活用は、配車アプリの機能で済む作業と、自社でAIを作る価値がある作業に分けて考えると、投資する先がはっきりします。

  • アプリの機能で済む作業は、アプリからの配車と予約
  • 自社でAIを作る価値がある作業は、電話予約の記録、乗務記録の確認、採用と教育の文書づくり

分ける基準は、作業に必要な記録が自社の中にあるかどうかです。

配車アプリの会社は多くの車両と利用者の記録を集めていますが、乗務記録や電話の記録は自社の中にあります。

自社の中にある記録を使う作業は、配車アプリの会社が代わりに処理してくれない作業でもあります。

配車アプリと自社のAIは、どちらかを選ぶものではなく、作業ごとに使い分けるものです。

アプリの機能で済む作業

アプリの機能で済む作業は、利用者がアプリから注文し、配車アプリの仕組みの中で受付から車両の手配までが進む作業です。

アプリからの配車と、アプリからの予約が当てはまります。

GOのAI予約のように、利用者がアプリから注文する予約では、配車担当が電話で予約を聞き取る作業は生じません。

アプリからの配車と予約は、加盟している配車アプリの機能として使い、乗務員にも使い方を伝えます。

アプリの画面で何が表示されるか、どの地域で使えるかは、加盟している配車アプリに確かめます。

複数の配車アプリに加盟している会社では、乗務員がどのアプリの注文を優先するかも社内で決めておきます。

自社でAIを作る価値がある作業

自社でAIを作る価値がある作業は、自社の電話、書類、規程に沿って処理する作業です。

配車アプリでは処理できず、会社ごとに様式や決まりが違う作業が当てはまります。

作業 自社で作る価値がある理由 AIエージェントが処理すること
電話予約の記録 病院やホテルなど、得意先ごとの決まりがある 聞き取った内容を予約の様式に書き起こす
乗務記録の確認 日報の様式と運賃メーターの記録が会社ごとに違う 転記と、記録の食い違いの一覧づくり
問い合わせの回答 料金の目安や忘れ物の手順が会社ごとに違う 社内の規程から回答文の下書きを作る
採用と教育の文書 給与の計算方法や教育の内容が会社ごとに違う 求人文と教材の下書きを作る

AIエージェントとは、決められた手順に沿って、記録の読み取り、確認、文書の作成を続けて処理するAIのことです。

1つの作業ごとに人が指示を出す使い方より、毎日くり返す作業の手間を減らせます。

たとえば、乗務記録の確認では、日報を読み取り、運賃メーターの記録と照らし、食い違いを一覧にするところまでを続けて処理させます。

問い合わせの回答では、社内の運賃表や忘れ物の手順書を読ませ、回答文の下書きを作らせます。

どちらの作業も、AIが作った結果を人が確かめてから、記録や回答として使います。

配車アプリを使う業務と自社で作る業務

AI導入を進める4つのステップ

AI導入は、業務の棚卸し、小さな範囲での試行、運用ルールの決定、効果の確認の4つのステップで進め、各ステップで数字を取ります。

導入前の数字を取っておかないと、AIを使い続けるかどうかを、担当者の感想だけで決めることになります。

  • 業務の棚卸しで、作業時間の長い業務を数字で見つける
  • 小さな範囲での試行で、AIに任せる作業を確かめる
  • 運用ルールの決定で、入力してよい情報と確認する人を決める
  • 効果の確認で、作業時間と誤りの数を導入前と比べる
ステップ やること 測る数字
業務の棚卸し 業務ごとの作業時間と件数を書き出す 1日あたりの作業時間、件数
小さな範囲での試行 1つの業務だけでAIを使う AIの結果を人が直した件数
運用ルールの決定 入力してよい情報と確認する人を決める ルールに沿わない入力の件数
効果の確認 導入前と同じ方法で数える 作業時間、取り逃した電話の数

業務の棚卸し

業務の棚卸しとは、配車担当、事務、運行管理者の作業を書き出し、1日あたりの時間と件数を数えることです。

1週間ほど、作業の名前と、かかった時間と、件数を記録します。

電話予約なら、受けた件数と、取り逃した件数と、1件あたりの通話時間を数えます。

乗務記録なら、日報の枚数と、転記と確認にかかった時間を数えます。

時間が長く、毎日くり返し、手順が決まっている業務が、AIを最初に使う候補になります。

棚卸しの記録は、次のような表にすると比べやすくなります。

作業 担当 1日の件数 1件の時間 手順が決まっているか
電話予約の受付 配車担当 記録した件数 記録した分数 聞き取る項目は決まっている
日報の転記 事務担当 日報の枚数 1枚の分数 様式は決まっている
求人文の作成 採用担当 掲載先の数 1件の分数 条件は決まっている

件数と時間をかけた数字が大きく、手順が決まっている作業から、AIを試します。

小さな範囲での試行

小さな範囲での試行は、棚卸しで選んだ業務1つだけにAIを使い、結果を人が確かめる期間です。

たとえば、乗務記録の転記だけをAIに任せ、事務担当が全件を元の日報と照らします。

試行の間は、AIの結果を人が直した件数と、直した理由を記録します。

直した件数が多い項目は、AIに渡す様式や指示を直すか、人の作業として残します。

試行は、営業所が複数ある場合でも、1つの営業所から始めると記録を取りやすくなります。

乗務記録の転記を試すなら、月末の締めを1回含む期間にすると、締めの作業時間まで比べられます。

試行の間も、元の手作業の手順はやめずに残し、AIの結果と手作業の結果を比べます。

運用ルールの決定

運用ルールの決定は、試行の結果をもとに、AIに入力してよい情報と、結果を確かめる人を決めることです。

乗客の名前や電話番号、乗務員の個人の情報のうち、どれをAIに渡すかを先に決めます。

AIが作った記録や文書を、誰がいつ確かめて保存するかも決めておきます。

ルールに書く項目は、次の4つです。

  • AIに入力してよい情報と、入力しない情報
  • AIの結果を確かめる人と、確かめる時刻
  • AIが答えずに人に回す問い合わせの種類
  • AIが止まったときに、手作業に戻す手順

ルールは、配車担当や事務担当が見て分かる1枚の紙にして、作業する場所に置きます。

効果の確認

効果の確認は、導入前と同じ方法で作業時間と件数を数え、AIを使い続けるかを決めることです。

棚卸しで数えた1日あたりの作業時間と、試行後の作業時間を比べます。

電話予約なら、取り逃した電話の数がどれだけ減ったかを比べます。

作業時間が減っても、AIの誤りを直す時間が増えていれば、効果は小さくなります。

たとえば、日報の転記と確認に1日60分かかっていた作業が、AIを使って20分になったとします。

1か月の営業日を22日とすると、減る時間は40分×22日で880分、約14.7時間です。

AIの利用料と、AIの誤りを直す時間を差し引いて、減った時間が残るかを確かめます。

費用は、初めの設定や台帳とつなぐ作業の費用、月ごとの利用料、試行中に手作業と並行する手間に分けて見積もります。

電話予約では、時間に加えて、聞き直しの回数、人に回した電話の割合、迎車の誤りや苦情の件数も数えます。

時間が減っても誤りや苦情が増えていれば、AIに任せる範囲を狭めます。

効果が出た業務は、ほかの営業所や、次の業務に同じ手順で広げます。

AI導入を進める4つのステップ

乗客と乗務員を守るための注意点

AIをタクシーの業務に使うときは、乗客の個人情報、法令で保存が決まる記録、AIの回答の確認、乗務員への説明の4つに注意します。

4つとも、AIを入れた後ではなく、試行を始める前に社内で決めておく内容です。

  • 乗客の個人情報の扱いで、AIに入力してよい情報を決める
  • 法令で保存が決まる乗務の記録を、人が確かめて保存する
  • AIの回答を人が確かめる仕組みを、利用者への回答の前に置く
  • タクシー乗務員への説明で、AIに任せる作業と人が続ける作業を伝える

乗客の個人情報の扱い

乗客の名前、電話番号、迎車地、行き先は、個人情報として扱います。

個人情報保護委員会は、令和5年6月2日に、生成AIサービスの利用に関する注意喚起を出しています。

注意喚起では、個人情報を含む指示を生成AIサービスに入力する場合、利用目的の範囲内であることを十分に確かめるよう求めています。

本人の同意なく入力した個人データが、回答の出力以外の目的で使われると、法律違反になる可能性があるとも示しています。

AIのサービスを選ぶときは、入力した内容が機械学習に使われない設定になっているかを確かめます。

病院への送迎のように、病気が推測できる情報を含む予約は、特に入力の範囲を狭くします。

AIに渡す前に外す情報の例は、次のとおりです。

  • 乗客の名前と通院先の病院名の組み合わせ
  • 乗客の自宅の住所と電話番号の組み合わせ
  • 乗務員の免許証の番号や、健康診断の結果

予約の記録を作るAIに名前や電話番号が欠かせない場合は、学習に使われない契約のサービスに限って使います。

サービスの契約では、入力した情報の保存期間、見られる人の範囲、削除の方法、情報が漏れたときの連絡の流れも確かめます。

参考:生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について|個人情報保護委員会

法令で保存が決まる乗務の記録

タクシー会社は、旅客自動車運送事業運輸規則で、乗務員ごとの業務の記録を作り、1年間保存することが決まっています。

旅客自動車運送事業運輸規則の第25条第3項は、タクシー会社に当たる一般乗用旅客自動車運送事業者が記録させる事項を決めています。

記録する主な事項は、次のとおりです。

  • 乗務員の氏名と、乗務した車両の登録番号
  • 業務の開始と終了の地点と日時、主な経過地点、走った距離
  • 休憩をとった地点と日時
  • 事故や著しい遅れがあった場合の概要と原因
  • 旅客が乗車した区間と、業務の開始時と終了時の走行距離計の積算キロ数

記録は、車両ごとに整理して保存します。

AIで転記や確認を行っても、記録を作る責任はタクシー会社にあります。

誤記を防ぐ社内の運用として、AIが書き起こした記録は、運行管理者か事務担当が元の日報と照らしてから保存します。

参考:旅客自動車運送事業運輸規則|e-Gov法令検索

AIの回答を人が確かめる仕組み

AIの回答を人が確かめる仕組みとは、AIが作った回答や記録を、利用者や記録に出す前に人が見る手順のことです。

AIは、もっともらしい文章で誤った料金や時刻を答えることがあります。

利用者への料金の目安や、迎車の時刻の回答は、誤りがあると苦情につながります。

料金の目安の回答は、AIの一般的な知識ではなく、社内の運賃表を読ませて作らせます。

運賃が改定されたときは、AIに読ませる運賃表も同じ日に新しいものへ入れ替えます。

忘れ物の返却や事故の連絡のように、状況によって答えが変わる問い合わせは、AIに答えさせず人に回します。

最初のうちは、AIの回答をすべて人が確かめ、誤りが少ない種類の回答から確認を減らします。

タクシー乗務員への説明

タクシー乗務員への説明では、AIに任せる作業と、乗務員が続ける作業を具体的に伝えます。

AIの話を聞いた乗務員が、仕事がなくなるのではと不安に思うことがあります。

AIが受け持つのは、電話の聞き取り、記録の転記、文書の下書きといった事務の作業です。

運転、乗客の乗り降りの手伝い、道案内のような接客は、乗務員が続ける仕事です。

日報の書き方が変わる場合は、変更の理由と、乗務員の作業がどう減るかを先に伝えます。

たとえば、AIが日報の書き漏れを一覧にするようになれば、乗務員が事務所に呼ばれて書き直す回数が減ります。

電話予約の聞き取りをAIが受け持つ場合も、迎車地の確認の電話が乗務員に来るのかを説明しておきます。

タクシー会社が専門家に相談する場面

タクシー会社がAIの導入で専門家に相談するのは、自社の業務に合わせてAIエージェントを作る段階に入ったときです。

配車アプリの機能や、生成AIのサービスに文章を入力して使う範囲は、自社で始められます。

専門知識が必要になるのは、次のような場面です。

  • 電話予約の記録を、配車の台帳や表計算ソフトに自動で書き込みたい場面
  • 日報と運賃メーターの記録を照らす作業を、毎日決まった手順で処理させたい場面
  • 乗客の個人情報を扱うため、アクセスできる人や操作の記録を決めたい場面
  • 試行の結果から、作業時間がどれだけ減るかを見積もりたい場面

AIエージェントを作るには、配車の台帳や表計算ソフトとAIをつなぐ設定と、誰がどの記録を見られるかの設計が必要です。

つなぐ設定を誤ると、AIが書き込んだ予約が台帳に反映されず、配車の漏れにつながります。

業務の棚卸しと時間の計測までは、社内で進められます。

数えた作業時間をもとに、どの作業をAIエージェントに任せるかを決める段階で、専門家の力を借ります。

関連記事:物流業務にAIを活用するには?配車指示や問い合わせ対応の効率化

関連記事:AIシステム導入支援とは?依頼できる内容と契約前の確認事項

電話予約の記録や乗務記録の確認をAIエージェントに任せる段階になったら、相談先を決めます。

malnaの成果報酬型AIエージェント構築支援では、作業時間がどれだけ減るかの見積もりから相談できます。

AIを使える人材が社内にいない場合

電話と日報のどこをAIに任せるかはわかった。

でも、試行の結果を見てAIへの指示を直していける人が社内にいない。

試行で人が直した件数を減らしていくには、日報の様式とAIへの指示の両方を読んで直せる担当者が欠かせません。

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