2026.09.21

AI

物流のAI活用は事務から|配車指示と問い合わせを短くする6つの論点

ドライバーの手配と荷主への連絡に追われ、事務所の電話が鳴り止まない日があります。配車指示を伝え、請求の内訳を確かめ、伝票の控えを探す。物流の事業所では、こうした事務のやり取りが一日の時間の多くを占めています。

目次

AIの話題になると、大がかりな設備投資の話に聞こえがちです。しかし実際に生成AIの利用が広がっているのは、文章を書く仕事と、社内にある情報を探す仕事でした。物流の事業所にも、そのまま当てはまる部分があります。

本記事では、物流のAI活用のうち、配車指示や請求といった事務作業と、荷主やドライバーからの問い合わせ対応に範囲を絞って整理します。社内文書の整え方、既存システムとのつなぎ方、権限と監査ログの設計まで、検討する順に並べました。現場の機械や設備をAIで動かす領域は扱いません。

運送会社や物流子会社で、事務の負荷を下げる役割を任された方に向けた内容です。

どの事務から着手するかは、事業所ごとに事情が違います。malnaは対象業務を洗い出すところを最初に手がけるため、どこを選ぶかの判断からご相談いただけます。

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物流のAI活用とは何か、この記事で扱う範囲

物流のAI活用とは、社内で交わしている連絡と書類づくりについて、下書きや検索をAIに担わせ、人が判断に使う時間を増やす取り組みです。送信と最終的な判断は担当者が持ちます。配車指示の伝達、請求内容の確認、荷主やドライバーからの問い合わせ対応といった事務のやり取りが、その対象になります。

この記事が扱う6つの領域

扱うのは、事務所の中で完結する仕事に限っています。いずれも既存の業務フローを組み替えるだけで着手でき、大きな設備投資を前提としません。検討する順に並べると、次の6つになります。上から順に手をつけるほど、後の工程で決めることが減っていきます。

領域 具体的な業務
事務作業の自動化 配車指示の伝達、請求内容の確認、伝票や報告書の作成
問い合わせ対応 荷主からの照会、ドライバーからの連絡への回答
社内文書と情報の整備 社内規程、業務マニュアル、安全教育の資料、過去の対応履歴
システム連携 既存の基幹システムとのつなぎ方
権限と記録 アクセス制御、監査ログ、AI利用のルール
社内での共有 使い方の共有、研修の進め方

進める順番としては、対象業務を1つ選び、回答と文書の元になる情報を整え、小さく試し、権限と記録を決め、システムとのつなぎ方を判断し、最後に社内へ広げるという流れになります。以降のH2も、この順に並べています。

現場の機械や設備を動かす領域は、ここでは扱いません。判断に必要な前提が会社ごとに大きく違うため、一般論で書くと読み手を誤らせるおそれがあるからです。物流とAIの話題全体を見渡したい方は、別の資料と合わせて読み進めてください。

生成AIの利用は文章と社内情報の周辺に集まっている

企業の生成AI利用は、すでに例外的な取り組みではなくなりました。総務省の令和8年版情報通信白書によると、自社の何らかの業務で生成AIを利用していると回答した割合は、日本で86.4%に達しています。

活用方針についても、積極的に活用する方針と、領域を限定して利用する方針を合わせた割合が68.9%でした。企業規模別では大企業が74.0%、中小企業が58.1%です。いずれも2025年度に実施されたアンケート調査にもとづく数値であり、回答企業の構成に左右される点は差し引いて読む必要があります。

業務の種類で見ると、日本では議事録やメール作成の補助での活用がもっとも多く、導入効果を実感すると答えた割合もこの領域が約7割でもっとも高くなっています。生成AIの活用によって生じうる影響としても、作業時間の短縮などによる業務の効率化が61.6%で最多でした。

この調査からわかるのは、文章を書く仕事で利用と効果の実感がそろって多いという傾向です。社内の情報を引き出す仕事も、そこから地続きの適用先として考えられます。配車指示の文面、荷主への回答、報告書の下書きは、いずれもこの範囲の仕事です。物流だから特別な使い方が要るというより、他の業種で効果が出ている使い方を、物流の書類と連絡に当てはめる形になります。

労働時間のルールが、事務の見直しを後回しにできなくしている

トラック運転者には、2024年4月1日から改正後の改善基準告示が適用されています。運転者の拘束時間と休息期間に基準が置かれたことを機に、事務側の時間の使い方まで見直す会社が出てきています。厚生労働省のポータルサイトに示されている拘束時間の上限は、次のとおりです。

区分 原則 労使協定による例外
1年の拘束時間 3,300時間以内 3,400時間以内(年6か月まで)
1か月の拘束時間 284時間以内 310時間以内(年6か月まで)
1日の拘束時間 13時間以内 最大15時間

休息期間は継続11時間以上与えるよう努めることを基本とし、9時間を下回らないものとされています。長距離貨物運送には、週2回まで1日の拘束時間を16時間とし、休息期間を継続8時間以上とできる特例があり、この場合は運行終了後に継続12時間以上の休息期間を与えることとされています。

同じ人数で同じ量を運ぶには、運転以外の時間をどう減らすかという問いが残ります。事務所側の書類と連絡にかかる時間も、その問いに含まれます。ただし、告示が直接定めているのは運転者の拘束時間と休息期間であり、事務作業を減らせば基準を満たせるという関係ではありません。

なお、労働時間に関する規制の当てはめは、勤務の実態や労使協定の内容によって判断が分かれます。自社の運用が基準を満たしているかどうかは、社会保険労務士など専門家への確認をおすすめします。

どこから手をつけるかが決まらないまま時間だけが過ぎることもあります。整理の段階から話したい場合は、malnaのお問い合わせ窓口で相談を受け付けています。

参考:トラック運転者の改善基準告示(厚生労働省)

配車指示・請求・伝票、事務作業のどこから手をつけるか

事務作業のうち先に手をつけるべきなのは、毎日発生し、書き方の型が決まっていて、間違いに社内で気づける仕事です。逆に、月に数回しか発生せず、書き方が都度変わり、間違えると荷主への請求に直結する仕事は後回しにします。効果が出る順ではなく、失敗しても取り返しがつく順に並べるのが早道です。

先に着手してよい作業と後回しにする作業

判断軸を整理すると、着手順は次のように決められます。

判断軸 先に着手してよい 後回しにする
発生頻度 毎日発生する 月に数回
書き方の型 決まっている 都度変わる
間違いの影響 社内で気づける 荷主や請求に直結する
確認する人 決まっている 誰が見るか曖昧

この表の左側に入る仕事から順に試していくと、社内の反発も少なく進みます。

配車指示の伝達は、口頭と手打ちの往復を減らすところから

配車指示でAIが効くのは、指示を作る場面ではなく、決まった内容を関係者に伝える場面です。誰にどの荷物を割り当てるかを決めること自体は、この記事の対象から外しています。荷主との関係や当日の事情を踏まえた人の仕事として残る部分だからです。ここを取り違えると、期待した効果が出ません。

一方、決まった内容を事務所からドライバーへ、あるいは荷主へ伝える部分は文章の作成です。過去の指示文を読み込ませておけば、同じ体裁の文面を下書きさせることができます。担当者は内容を確認して送るだけになり、書式を思い出す時間がなくなります。

効果を測るときは、指示を出すまでの時間ではなく、聞き直しの回数を見るほうが実態に合います。書き方が揃うと、受け取る側の確認の電話が減るからです。

請求まわりは、作る仕事と照らし合わせる仕事を分ける

請求の業務は、書類を作る仕事と、内容を照らし合わせる仕事に分けて考えます。前者は文章と数字を体裁に流し込む作業で、後者は2つの情報が一致しているかを見る作業です。性質が違うので、同じやり方で処理しようとすると無理が出ます。

書類を作る側は、AIに下書きを任せやすい領域です。取引条件や過去の請求内容を渡しておけば、明細の説明文や送付状の文面を用意できます。照らし合わせる側は、AIに候補を挙げさせたうえで、最終的な判断を人が引き取る形にします。

金額に関わる部分は、AIの出力をそのまま外に出さない運用にしておくのが安全です。誤りが荷主に届いてからでは、取り戻すのに数倍の手間がかかります。

伝票と報告書の転記は、様式を1つに寄せてから考える

伝票や報告書の転記に悩んでいる場合、AIを入れる前に様式を1つに寄せるほうが効果が大きいことがあります。営業所ごとに項目名も並び順も違う状態のままAIを挟むと、例外処理ばかりが増えていきます。

様式を統一できたら、次は同じ内容を何回書いているかを数えます。同じ数字を3か所に書いている仕事は、書く回数を減らす対象になります。AIに任せるのは、そのうえで残った、文章にして説明する部分です。

なお、社外の取引先を巻き込んで書式をそろえる調整は、社内の判断だけでは進みません。まずは自社で完結する範囲から手をつけてください。

荷主とドライバーからの問い合わせ対応をどう軽くするか

問い合わせ対応を軽くする起点は、件数を減らすことではなく、答えが決まっている問い合わせを見分けることです。物流の事業所に届く連絡には、どこかに答えが書いてあるものと、その場の判断が要るものが混ざっています。この2つを分けないまま全部を人が受けていると、判断が要る連絡に使える時間が削られていきます。

答えが決まっている問い合わせと、判断が要る問い合わせを分ける

最初にやることは、1週間分の問い合わせを書き出して、2つの山に分ける作業です。基準は単純で、社内のどこかに答えが書いてあるかどうかだけを見ます。書いてあるなら前者、その場の状況を踏まえて決める必要があるなら後者です。

分けてみると、前者の割合が想像より大きいことが多くあります。到着予定の確認、書類の再発行の手順、休業日の扱いといった連絡は、たいてい答えが決まっているはずです。ここにAIを挟むと、担当者は後者に集中できます。

このとき、件数の多い順に並べ替えるのを忘れないでください。月に1度しか来ない問い合わせに手をかけても、戻ってくる時間はわずかです。

過去の回答を、そのまま引ける形にしておく

答えが決まっている問い合わせにAIを使うには、回答の元になる情報が引ける状態になっている必要があります。担当者の頭の中と、個人のメール受信箱にしかない状態では、AIは何も答えられません。まずは引ける形に移すところが出発点です。

現実的な進め方は、過去のやり取りから頻度の高いものを選び、質問と回答の対で書き出すことです。最初から完全な文書を作ろうとせず、目安として20件ほどの対から始めます。運用しながら、答えられなかった質問を足していくほうが早く形になります。

書き出すときは、いつ時点の情報かを必ず添えます。料金や締め時間は変わるため、日付のない回答は後から使えなくなります。

電話で来る問い合わせは、記録の取り方から変える

電話中心の問い合わせは、AIを入れる前に記録の取り方を変える必要があります。通話の内容が誰の記憶にしか残っていない状態では、次に同じ質問が来ても、答えを探すところからやり直しになるからです。

やり方は難しくありません。通話後に、質問と回答を1行ずつ決まった場所に書き足すだけです。書く場所を決めて、書く項目を3つに絞ると続きます。この記録が溜まってくると、そのまま前項の質問と回答の対になります。

記録が残り始めてから、どの質問をAIに任せるかを決めます。順番を逆にすると、任せる先の情報がないまま道具だけが増えます。

答えさせない条件を、同時に決めておく

AIに答えさせる仕組みを作るときは、答えさせない条件を同じタイミングで決めます。決めないまま運用を始めると、根拠が古い回答や、本来は判断が要る内容への回答が、そのまま相手に届いてしまいます。

担当者へ回す条件は、3つに整理できます。回答の元になる文書の更新日が決めた期間より古いもの、金額や納期の変更を含むもの、苦情や事故に関するものです。いずれかに当てはまったら回答を出さず、担当者へ転送する形にします。

転送したあとの扱いも決めておきます。担当者が答えた内容を記録に戻し、次回からは答えられるようにするところまでを一連の流れにすると、答えられない質問が少しずつ減っていきます。

問い合わせの分類までは自社で進められても、回答の元になる情報をどこに置くかで手が止まることがあります。malnaは情報の整理とツールのつなぎ込みまでを支援の範囲に含めているため、相談の窓口から現状を共有いただければ、進め方の当たりをつけられます。

社内の文書と過去の対応履歴を、AIが使える形に整える

社内文書の整備は、AI活用の準備作業ではなく、それ自体が効果の出る対象です。社内規程、業務マニュアル、安全教育の資料は、作るのにも改訂するのにも時間がかかります。同時に、これらの文書は問い合わせ対応の答えの出どころでもあります。作る側と使う側の両方で効いてくるため、優先順位を上げやすい領域です。

社内規程とマニュアルは、下書きをAIに任せて確認を人が持つ

社内規程やマニュアルでAIに任せるのは下書きまでで、内容の責任は人が持ちます。文書の体裁を整え、抜けている項目を指摘させるところまでは得意な領域です。一方、自社の運用と合っているかどうかは、実際の業務を知っている人にしか判断できません。

進め方としては、既存の文書と、変更したい点を箇条書きで渡します。ゼロから書かせるより、既存の文書を下敷きにしたほうが、自社の言い回しに近い原稿が出てきます。

出てきた原稿は、必ず現場の担当者に読んでもらいます。文章として整っていても、実際の手順と違っていれば、現場では使われません。

安全教育の資料は、元にする資料を指定して作る

安全教育の資料をAIで作るときは、元にする資料を必ず指定します。指定しないまま作らせると、出典のわからない内容が混ざり、教育の場で説明できなくなります。受講者から根拠を尋ねられたときに答えられない資料は、その時点で使えなくなると考えてください。

社内の事故報告、過去の教育資料、関係法令の条文といった元資料を渡したうえで、対象者と時間の長さを指定して構成を作らせる流れが現実的です。作った資料には、どの資料を元にしたかを記録として残しておきます。

法令の解釈に踏み込む部分は、AIの出力をそのまま使わないでください。改正の反映が遅れている場合があるため、最新の条文を確認したうえで仕上げます。

過去の対応履歴は、どこに何があるかの一覧から始める

過去の対応履歴を整えるときは、中身を整理する前に、どこに何があるかの一覧を作ります。共有フォルダ、個人の端末、紙のファイル、業務システムの備考欄と、物流の事業所では情報の置き場が分かれているのが普通です。全体像がないまま個別の整理を始めると、途中で抜け漏れに気づいてやり直しになります。

一覧に載せる項目は、置き場所、内容の種類、更新の頻度、見てよい人の範囲の4つで足ります。この段階では中身を開かず、外から見てわかる情報だけを埋めていきます。

一覧ができたら、更新の頻度が高く、見てよい人の範囲が広いものから手をつけます。使われる回数が多い情報ほど、整えた効果が早く返ってくるからです。

古い手順と現行の手順を分けておく

情報を整えるときにもっとも重要なのは、古い手順と現行の手順を分けることです。AIは渡された情報の新旧を判断しません。廃止した手順が混ざったまま渡すと、廃止済みの内容を自信のある口調で答えてきます。

分け方は、現行のものだけを置く場所を1つ決め、それ以外を別の場所に移すという単純な形で構いません。判断がつかない文書は現行側に置かず、確認待ちとして別に分けます。

分けたあとは、文書ごとに責任者と最終更新日、見直しの頻度を決めておきます。置き場所を整えるだけでは、半年後には同じ状態に戻るからです。見直しの頻度は、年に1回のものと四半期に1回のものの2段階に分ければ足ります。

整えた情報は、日々使っている画面から呼び出せなければ結局使われません。malnaはツール連携を構築の工程に含めているので、既存のシステムとどうつなぐかという設計の段階から相談できます。

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既存システムとのつなぎ方で先に決めておくこと

既存システムとのつなぎ方は、AIの機能を選ぶ前に決めておく論点です。物流の事業所には、受発注、運行管理、会計と、用途の違うシステムが何年も使われてきた形で残っています。この構成を無視して道具だけを足すと、人が画面の間を行き来する仕事が新しく生まれます。

つなぎ方の3つの段階

人が転記している箇所を洗い出す

つなぎ方を考える前に、いま人が転記している箇所を洗い出します。あるシステムの画面を見ながら別の画面に打ち込む作業、印刷して手書きで書き写す作業が該当します。まずは作業の名前を並べるところからで構いません。

洗い出すときは、1件あたりの時間と、1日あたりの件数を一緒に記録します。この2つが揃っていないと、つなぎ込みに投資する価値があるかどうかを判断できません。感覚で多いと言われている作業が、数えてみると月に数件だったという例もあります。

あわせて、差し戻しや聞き直しが発生した回数も残しておきます。転記にかかった時間だけを見ていると、その後ろで起きているやり直しの手間を見落とします。

記録は目安として2週間取れば傾向が見えます。件数の波が大きい事業所では期間を延ばし、取り切ることより同じ基準で数えることを優先してください。

つなぎ方は3つの段階で考える

つなぎ方には段階があり、いきなり最終形を目指す必要はありません。試す段階、定型業務に組み込む段階、毎日の処理に載せる段階で、選ぶ手段が変わります。段階ごとに費用も止まったときの影響も違うため、先に全体を見ておくと判断がぶれません。

つなぎ方 向いている場面 注意点
画面の横でAIを使う 効果を試す段階 人の転記が残る
ファイルで受け渡す 定型の帳票を扱う業務 更新の頻度に合わせた運用が要る
システム同士をつなぐ 毎日発生する処理 既存システムの改修範囲を確認する

上の段階から順に試し、効果が確認できたものだけを下に進めます。最初からシステム同士をつなごうとすると、効果が出るかわからない段階で改修の費用が発生します。

つなぎ込みを急がなくてよい場合

転記の回数が少ない業務では、つなぎ込みを急ぐ必要はありません。1日に数件しか発生しない処理のために改修を入れると、投資の回収に年単位の時間がかかります。手をつけない判断も、立派な結論として記録に残しておきます。

判断の目安は、転記にかかる時間の合計が、改修にかかる費用と手間に見合うかどうかです。見合わない場合は、画面の横でAIを使う形のまま運用を続け、件数が増えた時点で見直します。

古いシステムの改修可否は、導入時の契約や保守の範囲によって変わります。つなぎ方を決める前に、現在の保守契約でどこまで手を入れられるかを確認しておくと、後から話が止まりません。

権限・アクセス制御・監査ログをどう設計するか

権限と記録の設計は、AIの利用を広げる前に済ませておく工程です。総務省の令和8年版情報通信白書では、生成AIの活用で懸念するリスクとして、日本では社内情報の漏洩などのセキュリティが最上位でした。一方、対策として全社的な指針やガイドラインを整備していると答えた割合は41.1%にとどまります。

誰がどの情報を見られるかを、AIを入れる前に決める

アクセス制御で最初に決めるのは、AIが参照する情報の範囲です。社内の情報をまとめて参照できるようにすると便利になる一方、本来その人が見られないはずの情報まで、AIの回答を通して届いてしまうことがあります。

物流の事業所では、荷主ごとの取引条件や、従業員の個人に関する情報を扱います。これらは参照先から外すか、参照できる人を限る形にします。判断がつかないものは、いったん外して運用を始めるのが安全です。

権限の設計は、既存のシステムの権限と揃えておくと運用が楽になります。AI側だけ別の考え方にすると、人事異動のたびに二重の変更が必要になります。

入力してよい情報の線引きを文書にする

入力してよい情報の線引きは、口頭の注意ではなく文書にします。文書がない状態では、判断が担当者ごとに変わり、問題が起きたときに何が悪かったのかを説明できません。事後に振り返るための基準としても、文書の形で残っている必要があります。

書き出す内容は、入力してよい情報、条件付きで入力してよい情報、入力してはいけない情報の3段階で足ります。荷主名や個人に関する情報の扱いは、条件付きの欄に具体的な条件とともに書きます。

線引きと同時に、使うサービス側の条件も確認します。入力したデータが学習に使われないか、保存される場所はどこか、社内の認証の仕組みと連携できるか、操作の記録を取り出せるかの4点は、契約前に押さえておきたい項目です。荷主名や担当者名を含む文章は、必要がなければ伏せてから入力する運用にしておきます。

なお、総務省と経済産業省はAI事業者ガイドラインを公表しており、2026年3月31日に第1.2版が示されています。これは法令ではなく指針にあたるため、自社のルールは個人情報の取り扱いに関する法令や、既存の情報セキュリティ規程と突き合わせて作るのが前提です。土台として参照しておくと、社内の説明がしやすくなります。

監査ログに何を残すか

監査ログは、後から経緯を追える最小限の情報を残す設計にします。すべてを残そうとすると保管の負担が増え、結局は見返されないログになりがちです。何のために残すのかを先に決めておくと、項目を絞りやすくなります。

残す項目は、いつ、誰が、どの情報を参照して、何を出力させたかの4つが基本です。これがあれば、誤った回答が出たときに、原因が情報側にあるのか使い方にあるのかを切り分けられます。

保管の期間は、社内の文書管理の規程に合わせます。AIだけ別の期間を設定すると、監査のときに整合を説明できなくなります。

参考:令和8年版 情報通信白書 第Ⅰ部第2章第1節(総務省)

参考:AI事業者ガイドラインのご紹介ページ(総務省)

社内での使い方の共有と研修をどう進めるか

社内に使い方を広げる段階では、道具の説明会よりも、実際の業務でうまくいった例を配るほうが効きます。物流の事業所は交代勤務や外回りがあり、全員が同じ時間に集まる機会を作りにくい職場です。集合研修だけに頼ると、参加できなかった人がそのまま使わない側に残ります。

社内に広げる3つの手順

最初に使う人を決めて、実際の業務を題材にする

広げる前に、最初に使う人を決めます。全員に同時に開放すると、うまくいかなかった話だけが先に広がり、その後の導入が難しくなります。人数は1人か2人で十分で、肩書きよりも、その作業に毎日触れているかどうかで選ぶのが現実的です。

選ぶ基準は、AIに詳しいかどうかではなく、対象の事務作業を日常的に担当しているかどうかです。毎日その作業をしている人なら、出力が使えるかどうかを即座に判断できます。2週間ほど使ってもらい、使えた場面と使えなかった場面を書き出してもらいます。

この記録が、次に広げるときの説明資料になります。他社の事例より、隣の席の人が実際に使った例のほうが、社内では説得力があります。

うまくいった使い方を集める場所を作る

使い方が広がる職場には、うまくいった例が集まる場所があるものです。逆に、個人が工夫した使い方が個人の中に留まっている職場では、同じ試行錯誤が何度も繰り返されます。集める場所を作るかどうかで、その差が生まれます。

場所は既存の連絡手段で構いません。チャットの1つのチャンネル、共有フォルダの1つの文書といった形で、投稿の場所を1か所に決めます。書く形式は、どの業務で、どう指示して、どんな結果だったかの3点に絞ります。

集まった例のうち、頻度の高いものは共通の型として整理します。ここまで進むと、新しく使い始める人が最初から一定の水準で使えるようになります。

研修では操作より、任せ方の型を渡す

研修で伝えるべきなのは、道具の操作方法ではなく、どの仕事をどこまで任せるかという判断です。操作は触れば覚えますが、任せてよい範囲の見極めは、経験がないと難しい部分です。ここを共有せずに配ると、人によって任せ方が大きく変わります。

具体的には、下書きまで任せる仕事、候補を挙げさせて人が選ぶ仕事、任せない仕事の3つに分けて例を示します。物流の事務であれば、通知文の下書きは1つ目、請求内容の照らし合わせは2つ目、荷主との条件交渉は3つ目に入ります。

研修の後は、実際に使った記録を集める仕組みにつなげます。受けて終わりにすると、数週間で元の手順に戻ります。

よくある質問

物流のAI活用について、検討の初期に出てくる質問をまとめました。どこから始めるかという実務の話から、社内の情報を入力してよいかという扱いの線引き、労働時間の規制との関係までを5つに整理しています。

Q. 物流でAIを使うなら、何から始めるのがよいですか。

A. 毎日発生し、書き方の型が決まっていて、間違いに社内で気づける事務作業から始めます。配車指示の通知文や社内向けの報告書の下書きが代表例です。失敗しても取り返しがつく業務を選ぶことで、社内の反発を抑えながら効果を確認できます。

Q. 生成AIに社内の情報を入力しても問題ありませんか。

A. 入力してよい情報の線引きを、文書にしたうえで運用します。荷主ごとの取引条件や個人に関する情報は、条件を決めずに入力しないでください。利用するサービスの契約内容によって入力データの扱いが変わるため、導入前に提供元の条件を確認する必要があります。

Q. 既存の基幹システムを入れ替えないとAIは使えませんか。

A. 入れ替えは必要ありません。最初は画面の横でAIを使う形で効果を確認し、毎日発生する処理だけをシステム同士のつなぎ込みに進める順番が現実的です。転記の件数が少ない業務では、つなぎ込みをしないまま運用を続ける判断もあります。

Q. 小さな事業所でも取り組めますか。

A. 事務作業と問い合わせ対応の範囲であれば、規模に関わらず着手できます。大がかりな設備を前提としないためです。ただし人数が少ない事業所ほど、担当者が通常業務と兼務することになるため、対象を1つに絞って始めるほうが続きます。

Q. 2024年4月からの労働時間のルールとAIの活用は関係がありますか。

A. 直接の関係はありませんが、運行の組み方に上限がかかる以上、運転以外の時間を見直す必要性は高まっています。事務所の書類と連絡にかかる時間はその対象の一つです。自社の運用が基準を満たしているかは、専門家に確認してください。

まとめ

物流のAI活用は、現場の設備を入れ替える話から始めなくても成立します。配車指示の通知、請求まわりの書類、問い合わせ対応といった事務のやり取りは、生成AIがすでに効果を出している文章と社内情報の領域に重なるからです。運転者の拘束時間に基準が置かれた今、運転以外の時間をどう減らすかという問いも残ります。

進め方としては、毎日発生して型の決まった事務作業を1つ選び、回答や文書の元になる情報を整え、既存のシステムとどうつなぐかを決め、権限と記録の設計を先に済ませる順番になります。最後に、社内で使い方を共有する仕組みまで作って初めて、一度きりの試行で終わらずに済みます。まずは1週間分の問い合わせと、転記している箇所を書き出すところから着手してみてください。書き出したあとの優先順位の付け方に迷う場合は、malnaへのお問い合わせから状況を共有いただくこともできます。

AIを使える人材が社内にいない場合

事務の負荷を下げる道筋は見えた。でも、既存の基幹システムとつなぐ設計を書ける人が社内にいない。

つなぎ込みの設計には、社内の事情を知っている人と、仕組みを書ける人の両方が要るのではないでしょうか。片方だけでは、要件が固まらないまま時間だけが過ぎがちです。malnaでは、AI活用の実務経験を持つ人材をご紹介するAIタレント名鑑を運営しています。採用ではなく業務委託として、週1日から相談いただけます。

人の当てがつく前であっても、誰がどこまで触れてよいか、何を記録に残すかは先に決まっている必要があります。malnaは認証の管理やアクセス制御、操作の記録をどう設計するかまで扱っているため、対象を広げる前に線を引いておけます。

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