2026.09.28
福祉現場のAI活用方法!支援記録や書類作成を効率化するポイント
支援記録を書き終えるころには利用者が帰ったあとで、計画書の見直しや会議録の整理は残業に回る。障害福祉サービスや相談支援の事業所では、書類の仕事が支援の時間を圧迫しがちです。

目次
一方で、生成AIを書類業務に使おうとすると、すぐに個人情報の問題に突き当たります。福祉の現場で扱う記録には、障害や病歴といった特に慎重な扱いが求められる情報が当たり前のように含まれているからです。便利そうだと分かっていても、ルールがないまま職員が個別に使い始めるのは避けたい、というのが多くの管理者の本音でしょう。
本記事では、国が示している障害福祉分野の業務効率化の目標、AIに任せやすい業務と人が判断を持つべき業務の線引き、個人情報の扱いで先に決めておくこと、最初の1業務を選ぶ手順、職員が下書きを確認する方法までを順に見ていきます。
対象は、障害福祉サービス事業所や相談支援事業所、社会福祉法人で、書類業務の負担を減らす方法を探している管理者・事務担当者の方です。
どの書類から手を付けるかは、事業所ごとの業務の偏りで変わります。malnaでは業務の棚卸しを最初の工程として切り出しているので、お問い合わせから対象業務の見極めだけでも相談できます。
福祉のAI活用とは、支援の周辺にある書類業務をAIに下書きさせる取り組みです
福祉のAI活用とは、利用者への支援そのものをAIに置き換えることではなく、支援記録の整形や会議録の要約、書類の下書きといった支援の周辺にある文章業務をAIに任せ、職員が支援に向き合う時間を取り戻す取り組みです。判断と責任は職員に残し、手を動かす部分だけを軽くするという線引きが出発点になります。福祉の現場では、利用者と直接向き合う支援の時間と、その前後に発生する記録・連絡・会議・請求といった間接業務の時間が、同じ職員の1日の中に混在しています。AIが役に立つのは後者であり、前者の時間を増やすための手段として位置づけると、職員の理解も得やすくなります。
国は業務量の縮減に取り組む事業所を増やす目標を掲げています
厚生労働省が2025年(令和7年)6月13日に取りまとめた「省力化投資促進プラン―障害福祉―」では、ICT活用等により業務量の縮減を行う事業所の割合を、現状の32.3%から2026年に50%、2029年に90%以上へ引き上げる目標が示されています。同じプランでは、障害福祉サービス利用者数が増える中で人材確保が喫緊の課題であり、手続負担の軽減などを通じた間接業務の負担軽減を一層進めることが重要だとされています。
| 指標 | 現状 | 2026年 | 2029年 |
|---|---|---|---|
| ICT活用等により業務量の縮減を行う事業所の割合 | 32.3% | 50% | 90%以上 |
申請・請求の書類は標準様式が基本になります
同じプランには、指定申請と報酬請求に関する文書について、標準様式と標準添付書類の使用を基本原則とする府省令等の改正が令和7年3月に行われたことが記されています。この改正は令和8年(2026年)4月に施行され、事業所が自治体に出す指定申請や報酬請求の書類は、国が定めた標準様式で出すことが基本になりました。様式が全国で共通になったことで、AIに下書きを任せる際の手順も組み立てやすくなります。 国の方針と現場の負担軽減が同じ方向を向いている今は、書類業務の見直しに着手しやすい時期だと言えます。
参考:省力化投資促進プラン―障害福祉―(令和7年6月13日)|厚生労働省
AIに任せやすい業務と、人が判断を持つ業務を分けます
AIに任せやすいのは、元になる事実を職員が持っていて、それを読みやすい文章に整える業務です。反対に、利用者の状態を見立てる、支援の方針を決める、事故や権利に関わる判断をするといった業務は、AIの出力を参考にすることはあっても、判断そのものは職員が持ち続けます。
任せやすいのは事実を整える文章業務です
たとえば、職員が箇条書きで残したメモを支援記録の文体に整える作業、担当者会議の発言メモから要点をまとめる作業、研修資料や業務マニュアルの下書き、保護者や関係機関への連絡文の文案づくりが当てはまります。どれも元の事実は職員の手元にあり、AIは言い回しと構成を整えるだけなので、確認の負担が小さく済みます。
判断を伴う業務はAIに渡しません
個別支援計画やサービス等利用計画の内容そのもの、アセスメントの見立て、虐待や事故が疑われる場面での判断は、職員と管理者が責任を持つ領域です。AIが作った文章が整っていても、支援の方針を決める根拠にはなりません。 計画書の文章を整える補助に使う場合も、目標や支援内容の決定は会議で職員が行い、その結果をAIに文章化させる順番を守ります。
| 区分 | 業務の例 | AIの役割 |
|---|---|---|
| 任せやすい | 支援記録の文体整形、会議録の要約、マニュアルの下書き、連絡文の文案 | 下書きと言い回しの調整 |
| 補助にとどめる | 個別支援計画の文章化、研修の理解度確認の問題づくり | 職員が決めた内容の文章化 |
| 渡さない | アセスメントの見立て、支援方針の決定、事故・虐待の判断 | 使わない |
この線引きは、事業所の種類や職員の経験によって少しずつ変わります。たとえば、経験の浅い職員が多い事業所では、補助にとどめる業務の範囲を狭めに設定し、慣れてきたら広げるという段階的な運用が安全です。介護施設での具体的な導入事例と、報酬・人員基準との関係は別の記事で整理しています。
関連記事:介護のAI活用事例を紹介!記録業務や見守りへの導入ポイント
外部に出す文章は送信前に人が読み直します
保護者や関係機関、行政に送る文章は、事業所の内部で使う記録よりも誤りの影響が大きくなります。AIが作った文案は、宛先・日付・固有名詞・数字を中心に職員が読み直し、管理者の確認を経てから送る流れにしておきます。 外部向けの文章ほど、AIに任せる範囲を下書きにとどめておくと安心です。

個人情報の扱いを先に決めてから使い始めます
福祉の現場でAIを使う前に決めておくべきなのは、どの情報をAIに入力してよいか、入力するならどう加工するかというルールです。職員が個別に判断して使い始めると、あとから取り返しのつかない入力が起きてしまいます。
障害や病歴の情報は要配慮個人情報に当たります
個人情報保護委員会のQ&Aでは、身体障害・知的障害・精神障害等の障害があることを示す情報は、個人情報保護法施行令第2条第1号により要配慮個人情報に当たると示されています。診療や調剤に関する情報も全て要配慮個人情報に当たるとされています。福祉の記録はこうした情報を含むことが前提になるため、一般企業より一段慎重なルールが必要です。
参考:「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」に関するQ&A|個人情報保護委員会
生成AIへの入力には個人情報保護委員会の注意喚起があります
個人情報保護委員会は2023年(令和5年)6月2日、生成AIサービスの利用に関する注意喚起を公表しました。個人情報取扱事業者が個人情報を含むプロンプトを入力する場合は、特定された利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認することが求められています。あらかじめ本人の同意を得ずに個人データを含むプロンプトを入力し、その個人データが応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合には、個人情報保護法の規定に違反する可能性がある、とも明記されています。
参考:生成AIサービスの利用に関する注意喚起等(令和5年6月2日)|個人情報保護委員会
氏名や特定につながる情報は置き換えてから入力します
実務で最初に決めたいのは、氏名、生年月日、住所、受給者証番号といった個人を特定できる情報を、入力前に「利用者A」のような記号へ置き換えるルールです。障害名や服薬の情報も、文章化に必要でなければ入力から外します。 置き換えの手順は口頭で伝えるだけでなく、書面の利用ルールに落として全員が同じ手順を踏めるようにしてください。
入力した内容が学習に使われない設定と契約を確認します
利用する生成AIサービスごとに、入力した内容がサービス側の学習に使われるかどうか、保存期間はどれくらいか、管理者が利用状況を確認できるかが異なります。職員の個人アカウントで無料版を使うのではなく、法人として契約し、学習に使わない設定とアクセス管理ができる環境を用意することが前提です。 判断に迷う点は、個人情報の取扱いに詳しい専門家へ確認してください。
出力した文章の保存場所と閲覧権限も決めておきます
AIに入力する情報だけでなく、AIが出力した文章をどこに保存し、誰が閲覧できるかも同時に決めておく必要があります。記号に置き換えて入力した下書きでも、職員が元の氏名に戻して記録システムに転記した時点で、通常の支援記録と同じ管理が求められます。 下書きを個人のパソコンや共有していないフォルダに残したままにしないよう、転記後の下書きの扱いまでルールに含めてください。
最初の1業務は業務の棚卸しから選びます
最初にAIを使う業務は、思いついたものから始めるのではなく、職員の1週間の業務を時間で記録し、繰り返しが多く判断が少ない業務を選ぶと失敗しにくくなります。効果を測る方法も、始める前に決めておきます。
1週間の業務を時間で記録します
まず、職員数名に1週間、どの書類に何分かけたかを記録してもらいます。支援記録、日報、会議録、請求関連の書類、研修資料など、書類の種類ごとに時間を集計すると、どこに時間が偏っているかが見えてきます。記録は完璧でなくて構いません。15分単位のざっくりした記録でも、偏りを見つけるには十分です。
繰り返しが多く判断が少ない業務を選びます
集計した業務の中から、毎日発生する、形式がほぼ決まっている、判断を伴わないという3つの条件がそろう業務を最初の対象にします。多くの事業所では、支援記録の文体整形や会議録の要約がこの条件に当てはまりやすい一方、事業所の業務の偏りによって最適な1業務は変わります。 複数の候補がある場合は、確認にかかる時間が短いものから試すと、職員の負担感が少なく始められます。
削減できた時間の測り方を先に決めます
始める前に、対象業務にかかっていた時間を測っておき、AIを使い始めてから同じ方法で測ります。AIの出力を確認し直す時間も含めて測らないと、実態より効果を大きく見積もってしまいます。 削減時間だけでなく、確認で見つかった誤りの件数も記録しておくと、続けるかどうかの判断材料になります。
対象を広げる順番をあらかじめ決めておきます
最初の1業務で効果が確認できたら、次にどの業務へ広げるかを、棚卸しの結果から順番を付けて決めておきます。広げる順番は、削減できる時間の大きさだけでなく、確認にかかる負担と、個人情報がどれだけ含まれるかも合わせて判断材料にします。 たとえば、研修資料やマニュアルの下書きは個人情報をほとんど含まないため、支援記録より先に広げやすい業務です。反対に、相談記録のように要配慮個人情報が多く含まれる業務は、置き換えのルールと確認手順が十分に定着してから対象にすると、事故を防ぎながら範囲を広げられます。


AIの下書きは職員が決まった手順で確認します
AIの下書きは、そのまま記録や書類として残さず、職員が決まった手順で確認してから確定させます。確認の手順を人によって変えないことが、記録の質をそろえる前提になります。
事実と推測が混ざっていないかを確かめます
AIは、元のメモに書かれていないことを補って、もっともらしい文章を作ることがあります。支援記録では、実際に見たこと・聞いたことと、職員の推測や評価が区別されている必要があります。 AIが書き足した表現がないかを、元のメモと突き合わせて確認してください。特に「落ち着いて過ごされていた」「意欲的に取り組まれていた」といった評価を含む表現は、元のメモに根拠となる事実が書かれているかを一つずつ確かめます。根拠のない評価が記録に残ると、次に読む職員や関係機関が利用者の状態を誤って受け取ってしまうおそれがあります。
利用者の言葉の言い換えに注意します
利用者本人が話した言葉を、AIがより一般的な表現に言い換えてしまうことがあります。本人の言葉そのものに意味がある場面では、言い換えずに原文のまま残すよう、あらかじめ指示に含めておきます。 確認で見つかった言い換えの傾向は、事業所内で共有したうえで次の指示に反映させていきます。
確認した人と日付を残します
AIの下書きを使った記録には、確認した職員と日付を残す運用にしておくと、後から内容を見直す際の手がかりになります。誰がどこまで確認したかが分からない記録は、監査や事故対応の場面で説明が難しくなります。
誤りが見つかったら指示文を直します
確認の段階で同じ種類の誤りが繰り返し見つかる場合は、職員が毎回手で直すのではなく、AIへの指示文そのものを見直します。たとえば、推測を書き足す傾向があるなら「メモにない内容は書かない」と明記する、敬語の使い方がそろわないなら事業所で使う表現の例を添える、といった調整です。指示文は職員ごとに作らせず、事業所で共通のものを1つ管理しておくと、改善の結果が全員に行き渡ります。
職員への共有と研修で使い方をそろえます
AIの使い方は、一部の職員だけが詳しい状態にせず、利用ルールと研修で全員がそろえることで定着します。使いこなす人と使わない人の差が広がると、記録の質にもばらつきが出てしまうためです。非常勤の職員や夜間・休日の担当者にも同じルールが届くよう、共有の方法も工夫が必要になります。
利用ルールを1枚の紙にまとめます
入力してよい情報と入力してはいけない情報、氏名の置き換え方、使ってよい業務と使ってはいけない業務、確認の手順を、A4用紙1枚程度にまとめます。長いマニュアルより、現場で手元に置いて見返せる1枚のほうが守られやすくなります。 ルールは一度作って終わりではありません。使い始めて見つかった問題を反映し、少しずつ更新していきます。
小さく試して記録を残します
最初は1つの業務、数名の職員から試し、1か月ほどで削減時間と確認で見つかった問題を振り返ります。振り返りの結果を法人内で共有してから対象を広げると、職員の不安を減らしながら範囲を広げられます。 研修で優先したいのは操作方法よりも、何を入力しないか、どう確認するかを繰り返し伝えることです。
管理者が利用状況を定期的に確認します
利用ルールを作っても、日々の忙しさの中で少しずつ守られなくなることがあります。月に一度など決まった周期で、管理者が利用履歴や入力内容の一部を確認し、置き換えのルールが守られているかを点検する仕組みにしておくと、問題が小さいうちに気づけます。 点検で見つかった問題は、担当者を責めるのではなく、ルールや指示文の分かりにくさとして扱い、次の改善につなげてください。職員が安心して報告できる雰囲気が、ルールの定着を支えます。

よくある質問
福祉の現場でAIを使い始めるときに迷いやすい点を、質問と答えの形でまとめました。
利用者の氏名を入力しなければ使ってもよいのでしょうか
氏名を置き換えるだけでは十分でない場合があります。生年月日や住所、受給者証番号、障害名など、組み合わせで個人が特定される情報も入力前に外すか記号に置き換え、法人として学習に使わない設定の環境を用意したうえで使ってください。
個別支援計画をAIに作らせてもよいのでしょうか
支援の目標や内容を決めるのは職員と会議の役割です。会議で決まった内容を読みやすい文章に整える補助として使うことはできますが、計画の中身そのものをAIに決めさせる使い方は避けてください。
最初にどの業務から始めればよいですか
職員の1週間の業務を時間で記録し、毎日発生する、形式が決まっている、判断を伴わないという3つの条件がそろう業務から始めるのが現実的です。支援記録の文体整形や会議録の要約が候補になりやすい業務です。
職員の個人アカウントで使ってもらってもよいのでしょうか
おすすめしません。入力内容の扱いを法人として管理できず、学習に使われる設定のまま要配慮個人情報が入力されるおそれがあります。法人として契約し、利用ルールと確認手順を定めた環境で使うことが前提になります。
まとめ
福祉のAI活用は、支援そのものではなく、支援の周辺にある書類業務をAIに下書きさせ、職員が判断と確認を持ち続ける形で進めると、現場の負担を減らしながら記録の質を保てます。国も障害福祉分野で業務量の縮減に取り組む事業所を増やす目標を掲げており、2026年4月からは申請・請求の書類の標準様式化も始まっています。
最初にやることは、入力してよい情報と置き換え方を定めた1枚の利用ルールを作ること。次に、職員の1週間の業務を時間で記録し、繰り返しが多く判断が少ない1業務を選んで小さく試すこと。この2つが揃えば、確認の手順や研修も、同じルールの上で組み立てていけます。急いで対象を広げるより、1つの業務で職員が「これなら任せられる」と感じられる状態を作ることが、法人全体に広げる近道になります。書類にかかっていた時間が少しでも支援の時間に戻れば、それ自体が利用者にとっての変化になるはずです。
利用ルールと確認手順を整えたうえで、書類業務を任せるAIエージェントの構築と運用定着まで進めたい場合は、malnaへの問い合わせからご相談ください。
AIを使える人材が社内にいない場合
書類を軽くする道筋は見えた。でも、個人情報のルールまで整えて現場で回し続ける人が法人の中にいない。
利用ルールも確認の手順も、現場に寄り添って回す人がいてこそ根づくものではないでしょうか。malnaでは、AI活用の実務経験を持つ人材をご紹介するAIタレント名鑑を運営しています。採用ではなく業務委託として、週1日から相談いただけます。

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