2026.10.12

AI

化学業界のAI活用事例!文献調査や研究開発に取り入れる方法

「化学業界のAI活用はMIの話ばかりで、自部署での使い方が分からない」
「配合のデータを社外に出せず、AIに何を入れてよいか分からない」

AIエージェント導入支援

こんなお悩みはありませんか。

他社の事例を読んでも、自社のどの業務から試せばよいのか見当がつかないですよね。

この記事では、化学業界のAIの使われ方と各社の生成AIの活用事例、文献調査から試す4つのステップをわかりやすく解説します。

どの調査業務をAIエージェントに任せるかの整理は、malnaのAIエージェント構築支援でご相談いただけます。

化学業界でAI導入が進む背景

化学業界でAI導入が進む背景には、研究開発で文献を読む時間が長いことと、熟練社員の退職で過去の資料が使われなくなることの2つがあります。

化学業界のAI活用とは、素材の開発、文献や社内資料の調査、製造現場の知識の引き継ぎに、機械学習や生成AIを使うことです。

化学メーカーの研究者は、新しい素材を考えるたびに、特許や学術論文から化合物の情報を集めます。

三井化学は、高分子や有機化合物の構造式から化合物名を特定する作業を、研究者が手作業で行っていたと発表しています。

同社によると、文献を1つずつ確認する調査には、1か月程度かかることがありました。

過去の資料が埋もれる課題もあります。

レゾナックは、旧昭和電工と旧日立化成の2社に、素材の開発や製造に関する資料がそれぞれ5万点以上あると発表しています。

ベテラン社員は紙のファイルやデータベースから資料を探せますが、若手社員は資料があることを知らない場合があります。

ベテラン社員が退職すると、資料が誰にも読まれなくなるおそれがあると、同社は説明しています。

旭化成も、熟練社員の高年齢化と退職で、製造現場の危険予知の進め方を引き継ぐことが課題になっていると発表しています。

文献を読む時間と、社内の資料を探す時間を減らすことが、化学メーカーが生成AIを使い始めた理由です。

旭化成は2023年5月から、グループ全体で生成AIの活用を支援しています。

三井化学は2024年に特許調査、2026年に文献調査のAIを社内向けに開発しました。

化学メーカーのAIは、研究所のMIに加えて、研究開発や知財、営業の調査業務でも使われています。

参考:三井化学、研究開発の文献調査を革新する生成AIエージェントを開発|三井化学

参考:生成AIで手書き文章も含めた社内資料を活用する独自システムChat Resonacを開発|レゾナック

参考:生成AIを新規用途探索の自動化や製造現場の技術伝承において活用開始|旭化成

AIが使われている3つの領域

化学業界でAIが使われている領域は、素材の開発、文献と社内資料の調査、製造現場の技術伝承の3つです。

  • 素材開発のMIで、実験の前に有望な配合や組成の候補を予測する
  • 文献と社内資料の調査で、特許や論文、過去の報告書から必要な情報を探す
  • 製造現場の技術伝承で、熟練社員の経験を過去の事例から引き出せるようにする

領域ごとに、使うAIの種類と、扱うデータが違います。

領域 主に使うAI 扱うデータ 主な利用部署
素材開発 機械学習によるMI 実験データ、物性データ 研究所
文献と社内資料の調査 生成AI、AIエージェント 特許、論文、社内報告書 研究開発、知財、営業
製造現場の技術伝承 生成AI 過去の事例、作業手順書 製造部門

素材開発のMI

素材開発のMIは、過去の実験データから、目的の性質を持つ素材の候補を予測する使い方です。

MIはマテリアルズインフォマティクスの略で、物質や素材の研究にデータ科学を組み合わせ、新しい素材の開発を効率よく進める手法を指します。

従来は、研究者が配合や合成条件を少しずつ変えて、実験を何度も繰り返していました。

MIでは、機械学習のモデルに過去の実験結果を学習させ、まだ試していない条件での性質を予測します。

予測で有望な候補を先に選ぶことで、実験の回数を減らせます。

MIで成果を出すには、同じ研究テーマで、条件と結果を比べられる形に記録した実験データが必要です。

国の研究機関のNIMSは、2018年の自らの発表で、日本でMI研究の中核機関を務めていると説明しています。

参考:米国国立標準技術研究所と物質・材料研究機構が研究交流の覚書締結|NIMS

文献と社内資料の調査

文献と社内資料の調査は、生成AIが読む・まとめる作業を担う領域で、研究所以外の部署でも使えます。

化学メーカーの研究開発部門は、特許や学術論文を読んで、競合の技術や素材の新しい用途を調べます。

知財部門は特許の調査を、営業部門は顧客の業界の動向を調べます。

生成AIは、大量の文書から質問に関係する部分を探し、要点を日本語でまとめられます。

構造式や表を含む技術文書を読み取れるAIも、化学メーカーが自社で開発しています。

部署ごとの調査の例は次のとおりです。

部署 調査の例 読む文書
研究開発 化合物の合成方法、物性、用途の調査 学術論文、特許、社内報告書
知財 出願前の先行技術の調査、競合の出願の動向 特許公報
営業 顧客の業界で使われている素材の調査 業界紙、特許、展示会の資料
品質保証 過去の不具合と対策の検索 社内の報告書、顧客への回答の記録

どの部署でも、文書を探して読み、要点をまとめる手順は共通しています。

製造現場の技術伝承

製造現場の技術伝承は、熟練社員の頭の中にある経験を、過去の事例から誰でも引き出せるようにする使い方です。

旭化成は、作業前に想定されるリスクを洗い出す危険予知の活動に、過去の事例を読み込ませた生成AIを使い始めました。

経験の浅い従業員でも、リスクと対応策を抜けなく洗い出せるようになったと、同社は発表しています。

生成AIが出したリスクの一覧を、作業の責任者が確認してから作業に入る流れになります。

参考:生成AIを新規用途探索の自動化や製造現場の技術伝承において活用開始|旭化成

化学業界でAIが使われている3つの領域

マテリアルズインフォマティクスと生成AIの違い

マテリアルズインフォマティクスと生成AIの違いは、MIが数値を予測するのに対し、生成AIは文章を読んで書くことにあります。

  • MIが得意な物性の予測で、実験データから素材の性質を数値で当てる
  • 生成AIが得意な文章の読み書きで、文献や資料の要点をまとめる
  • 調査を自律的に進めるAIエージェントで、検索から報告書まで一連の作業を任せる

生成AIも表や数値を読み取れるため、2つの違いは主な用途の違いです。

研究所以外の部署がAIを試すなら、文章を扱う生成AIのほうが始めやすくなります。

MIは、比べられる形で記録された実験データがそろった研究テーマでないと、予測の精度が出にくくなります。

生成AIは、社内にある報告書や、公開されている特許の文書から試せます。

項目 MI 生成AI AIエージェント
得意な作業 物性の数値の予測 文章の要約、検索、下書き 調べる、まとめる、報告するの連続作業
入力 実験データ 文書、質問 目標と、使ってよいデータベース
出力 予測値、候補の順位 文章 報告書、一覧表
主な利用者 研究者、データ分析の担当者 全部署の担当者 調査の担当者

MIが得意な物性の予測

MIが得意なのは、組成や合成条件から、強度や耐熱性などの物性の数値を予測することです。

研究者が試したい条件を入力すると、モデルが物性の予測値を返します。

予測値が高い順に候補を選び、実験で確かめます。

MIの予測は、学習したデータの範囲から離れた条件ほど外れやすくなります。

予測をそのまま採用せず、最終的な物性は実験で確かめる必要があります。

MIを始めるには、実験ノートの記録を、条件と結果の項目がそろった表の形に直す作業が先に必要になることが多くあります。

生成AIが得意な文章の読み書き

生成AIが得意なのは、大量の文書から必要な部分を探し、要約や下書きを作ることです。

ChatGPTやClaude、Microsoft 365 Copilotなどが、生成AIの代表的なサービスです。

化学メーカーでは、特許の分析、文献の調査、社内資料の検索、書類の作成に使われています。

生成AIは、もっともらしい誤りを含む文章を出すことがあります。

化合物名や数値は、担当者が元の文献と照らし合わせる必要があります。

社内の文書を読ませる使い方では、生成AIに社内資料を検索させ、見つけた資料をもとに答えさせます。

社内資料をもとに答えるため、自社の製品名や略称を含む質問にも答えやすくなります。

調査を自律的に進めるAIエージェント

AIエージェントは、目標を与えると、検索、読み取り、整理、報告書の作成までを自分で順に進めるAIです。

AI事業者ガイドライン(第1.2版)は、AIエージェントを「特定の目標を達成するために、環境を感知し自律的に行動するAIシステム」と定義しています。

AI事業者ガイドラインの第1.2版は、総務省と経済産業省が2026年3月31日に公表した文書です。

生成AIのチャットでは、担当者が質問を1つずつ入力します。

AIエージェントでは、「化合物Aの用途と製造方法を、関連する文献から一覧にする」のように目標を伝えると、決めた範囲で作業を続けて進めます。

事前に、検索してよいデータベース、出力の形、人が承認する手順を決めておく必要があります。

調査のように、同じ手順を何度も繰り返す業務ほど、AIエージェントで減らせる時間が大きくなります。

参考:AI事業者ガイドライン(第1.2版)|総務省・経済産業省

関連記事:AIエージェントの開発方法!必要な技術と費用・外注時の注意点

化学メーカーの活用事例

化学メーカーの生成AIの活用事例は、特許と文献の調査、素材の用途探索、製造現場の危険予知、社内資料の検索に集まっています。

  • 三井化学の特許チャットで、特許調査の時間を減らした
  • 三井化学の文献調査エージェントで、構造式から化合物の情報を集めた
  • 旭化成の用途探索で、文献データから用途の候補を考えた
  • 旭化成の危険予知で、過去の事例から作業前のリスクを洗い出した
  • レゾナックの社内資料検索で、2社分の過去の資料を対話で探せるようにした

各社が発表した効果の数値は、次のとおりです。

企業 対象の業務 発表した効果 発表日
三井化学 特許分析、新規用途探索 業務時間を80%削減 2024年12月25日
三井化学 文献調査 調査時間を80%以上削減、約1か月が約1日に 2026年3月2日
旭化成 新規用途探索 6,000以上の用途候補、選別時間を従来の約40%に 2024年12月9日
旭化成 書類監査対応 年間1,820時間の短縮 2024年12月9日
レゾナック 社内資料の検索 数値の発表なし 2024年1月18日

数値は、各社が社内の実験や初期検証で得た結果として発表したものです。

三井化学の特許チャット

三井化学は2024年12月、生成AIのチャットを載せた特許調査の仕組みを社内向けに開発したと発表しました。

化学分野の特許には、実験結果の表や化学構造式が多く含まれます。

表の読み取りや構造式の理解という化学分野に特有の作業に対応するため、同社は独自に開発しました。

機能は、特許分析、新規用途探索、営業支援の3つです。

特許分析と新規用途探索は、事業部や研究開発部門の協力で行った実験で、業務時間を80%減らす効果が出ました。

同社は2024年12月の発表で、2024年度内に実証実験を終え、2025年度から社内での本格運用を始めるとしています。

自社で試すときは、特許の要約と用途の候補出しのように、効果を時間で測れる機能から始めると、三井化学の発表と比べやすくなります。

参考:三井化学、生成AIを活用した特許チャットを開発|三井化学

三井化学の文献調査エージェント

三井化学は2026年3月、学術文献や研究報告書の構造式から、化合物の情報を自律的に調べて整理するAIエージェントを開発したと発表しました。

AIエージェントは、文献の中の画像と文章をあわせて読み、化合物名を特定します。

化合物名だけでなく、用途、物性、製造方法、実験条件も同時に取り出します。

必要に応じて化学データベースやWebの情報も参照し、研究者が使いやすい形の報告書にまとめます。

初期検証では、研究者の文献調査の時間が80%以上減り、1か月程度かかっていた調査が1日程度になりました。

同社は2026年3月の発表で、2025年度内に実証実験を終え、2026年度からの本格運用を目指すとしています。

三井化学の2つの事例は、2024年のチャットが質問に答える形で、2026年のエージェントが調査を最後まで進める形です。

同じ文献調査の業務で、AIに任せる範囲を質問への回答から調査の全体へ広げている点が、2つの事例の違いです。

参考:三井化学、研究開発の文献調査を革新する生成AIエージェントを開発|三井化学

旭化成の用途探索

旭化成は2024年12月、素材の新しい用途を見つける用途探索に、生成AIを使い始めたと発表しました。

用途探索とは、既存の素材や新しく開発した素材について、新しい使い道を見つけることです。

従来は、専門の従業員が調査と分析を行い、用途の候補を考えてから有望なものを選んでいました。

同社は、用途を自動で抜き出すAIと、抜き出した用途から有望な候補を選ぶ生成AIを開発しました。

膨大な文献データから6,000以上の用途候補を考え、ある素材では候補を選ぶ時間が従来の約40%になりました。

同社は、生成AIを使うと、専門家のアイデアと遜色のない用途候補を短い時間で考えられると説明しています。

三井化学の特許チャットにも新規用途探索の機能があり、用途探索は化学メーカーが生成AIを使う業務の1つになっています。

参考:生成AIを新規用途探索の自動化や製造現場の技術伝承において活用開始|旭化成

旭化成の危険予知

旭化成は、製造現場で作業前にリスクを洗い出す危険予知の活動に、生成AIを使っています。

従来は、作業者が個人の経験からリスクを予測していました。

過去の事例を読み込ませた生成AIを使うことで、経験の浅い従業員でもリスクと対応策を抜けなく洗い出せるようになったと、同社は発表しています。

危険予知の文書は、過去の事故やヒヤリハットの記録をもとに作るため、生成AIで過去の事例を探す使い方と相性があります。

自社で試すときは、過去の災害事例や作業手順書を読み込ませる範囲を、1つの工場や1つの工程に限ると、出力を確認しやすくなります。

参考:生成AIを新規用途探索の自動化や製造現場の技術伝承において活用開始|旭化成

レゾナックの社内資料検索

レゾナックは2024年1月、社内システム「Chat Resonac」を構築したと発表しました。

Chat Resonacは、旧昭和電工と旧日立化成の過去の資料を、生成AIに対話形式で質問して探せるシステムです。

社内資料を外へ漏らさない環境に取り込み、ベテラン社員からのデータ提供や回答への評価を反映して、回答の精度を高めています。

手書きの文書は、文字を読み取ってデジタル化する際に、生成AIで誤字や脱字を直してから取り込んでいます。

社内の電子実験ノートのデータも使えます。

全社で使える汎用型に加え、利用に制限がある資料を許可された部門だけが使う特化型も、20件以上の構築が進んでいると同社は発表しています。

資料の利用制限に合わせて、AIを使える部門を分けている点は、配合などの機密を扱う化学メーカーが自社で試すときにも参考になります。

参考:生成AIで手書き文章も含めた社内資料を活用する独自システムChat Resonacを開発|レゾナック

AIエージェント導入支援

化学業界でAIに任せやすい業務

化学業界でAIに任せやすい業務は、文書を読んで探す、まとめる、下書きする作業で、最後の判断を人が行えるものです。

  • 文献と特許の調査で、関係する文献を探して要点を一覧にする
  • 社内の技術資料の検索で、過去の報告書や実験記録から答えを探す
  • SDSの改訂作業で、法令の改正や成分の変更に合わせて直す箇所を洗い出す
  • 技術問い合わせへの回答案で、顧客からの質問に過去の回答をもとに下書きを作る
  • 実験報告書の要約で、長い報告書を会議用の要点にまとめる

5つの業務に共通するのは、AIが作った下書きを、担当者が元の文書と照らし合わせて確認できることです。

業務 AIが担う作業 人が担う作業
文献と特許の調査 検索、要約、一覧の作成 調査の方針、結論の判断
社内の技術資料の検索 資料の検索、答えの下書き 資料の正しさの確認
SDSの改訂作業 改訂が必要な箇所の洗い出し 記載内容の確定
技術問い合わせへの回答案 過去の回答をもとにした下書き 顧客への回答の承認
実験報告書の要約 要点の抜き出し 結論の解釈

文献と特許の調査

文献と特許の調査は、化学メーカー各社がAIの効果を数値で示している業務で、最初に試す業務に向いています。

調査の担当者は、AIに調べたい化合物や技術のテーマを伝え、関係する文献の一覧と要点を受け取ります。

担当者は一覧から重要な文献を選び、原文を読んで結論を出します。

調査の時間のうち、検索と読み流しの部分をAIに任せられます。

AIへの指示には、調べる化合物や技術、対象の期間、出力してほしい項目を書きます。

例えば「ポリプロピレンの耐熱性を上げる添加剤について、2020年以降の特許を探し、出願人、添加剤の種類、効果を表にする」のように指示します。

出力の項目を毎回同じにすると、調査の担当者が変わっても、同じ形の一覧が作れます。

AIの検索結果は、調査に漏れがないことを保証しません。

特許の権利範囲の判断や、他社の特許に触れるかどうかの判断は、AIの出力を使わず、知財部門や弁理士が行います。

社内の技術資料の検索

社内の技術資料の検索は、過去の報告書、実験記録、トラブルの記録から、担当者の質問に答える使い方です。

「過去に同じ樹脂で黄変が起きた試験はあるか」のように質問すると、AIが関係する報告書を探して答えます。

答えには、元になった報告書の名前と場所を示させます。

社内の報告書は、部署ごとに共有フォルダや文書管理システムに分かれて保管されていることが多くあります。

AIに読ませる範囲を、最初は1つの研究所や1つの製品群の報告書に限ると、答えの確認がしやすくなります。

担当者は、示された報告書を開いて内容を確かめます。

紙のまま保管されている資料は、先にデジタル化しておく必要があります。

SDSの改訂作業

SDSの改訂作業は、法令の改正や原料の変更があったときに、どの製品のSDSを直すかを洗い出す作業です。

SDSは安全データシートの略で、化学物質の危険性や取扱いの注意を、譲渡先や提供先に伝える文書です。

厚生労働省は、SDSの「人体に及ぼす作用」について、2023年4月1日から5年以内ごとの確認が義務になったと説明しています。

確認の結果、変更がある場合は、確認後1年以内の更新が義務です。

AIには、法令の改正や新しい有害性の情報と自社のSDSの一覧を照らし合わせ、直す可能性がある製品の一覧を作らせます。

どの製品が法令の対象になるか、分類をどう変えるか、提供先に通知するかの判断は、AIに任せません。

SDSの記載内容を確定するのは、化学物質の管理を担当する社員です。

AIが作った文章をそのまま提供先に渡すことはしません。

参考:化学物質による労働災害防止のための新たな規制について|厚生労働省

参考:化学物質対策に関するQ&A(ラベル・SDS関係)|厚生労働省

技術問い合わせへの回答案

技術問い合わせへの回答案は、顧客から届く製品の仕様や使い方の質問に、過去の回答をもとにAIが下書きを作る使い方です。

化学メーカーの営業や技術サービスの担当者には、耐熱温度、溶剤への耐性、保管期間などの質問が届きます。

AIは、カタログ、技術資料、過去の回答の記録から、質問に合う情報を探して回答の下書きを作ります。

担当者は下書きを確認し、数値や条件を元の資料と照らし合わせてから送ります。

安全に関わる質問や、保証を求める質問は、AIの下書きを使わず、品質保証部門が回答する形にします。

実験報告書の要約

実験報告書の要約は、長い報告書から目的、条件、結果、考察の要点を抜き出し、会議や上司への報告用にまとめる使い方です。

研究者は、実験のたびに報告書を書き、会議用に短い要約も作ります。

AIに報告書を読ませ、決まった項目で要約を作らせると、要約にかかる時間を減らせます。

要約の項目は、目的、試料、条件、結果、課題の5つのように、部署で決めた形にそろえます。

項目がそろった要約が増えると、過去の実験を検索するときにも使いやすくなります。

結果の解釈や次の実験の方針は、研究者が自分で書きます。

化学業界でAIに任せやすい5つの業務

関連記事:食品メーカーのAI活用

AI導入で注意する4つの点

化学業界のAI導入で注意する点は、データの持ち出し、出力の確認、データの表記、人材の4つです。

  • 配合と製造条件のデータの持ち出しで、社外に出してはいけない情報を決める
  • 出力の正しさの確認で、化合物名と数値を元の文献と照らし合わせる
  • 化学データの表記のばらつきで、物質名や単位の書き方をそろえる
  • AIを使える人材の不足で、一部の社員しか使わない状態を防ぐ

4つとも、導入の前に社内で決めておくと、試行の途中で止まらずに済みます。

配合と製造条件のデータの持ち出し

配合と製造条件は、化学メーカーの競争力そのものであり、AIに入力する前に扱いを決める必要があります。

外部の生成AIサービスに入力したデータが、サービス側の学習に使われる設定になっていないかを、契約と設定画面の両方で確かめます。

入力してよいデータと、入力してはいけないデータを、社内規程と契約に沿って一覧にし、社員に配ります。

データの種類 扱いの例
公開されている特許や論文 データベースの利用規約を確かめてから入力する
社内の報告書や実験記録 学習に使われない契約の環境でのみ入力する
配合、製造条件、原料の仕入れ先 社内に閉じた環境でのみ扱う
顧客から預かった試料や仕様の情報 顧客との契約の範囲を確かめてから扱う

レゾナックのChat Resonacも、社内資料を外へ漏らさない環境に取り込む形で作られています。

参考:生成AIで手書き文章も含めた社内資料を活用する独自システムChat Resonacを開発|レゾナック

出力の正しさの確認

生成AIの出力には、存在しない化合物名や、元の文献と違う数値が混ざることがあります。

化学の文献は、構造式、略称、商品名が入り混じっており、AIが別の物質と取り違えることがあります。

AIに答えを出させるときは、根拠にした文献と該当するページを必ず示させます。

担当者は、示された文献を開き、化合物名と数値が一致しているかを確かめます。

特に誤りが出やすいのは、似た名前の化合物、異性体、分子量や濃度などの数値、単位の換算です。

文献にない内容をAIが補って書いていないかも、根拠の文献と照らし合わせて確かめます。

確認した人の名前と日付を記録に残すと、誤りが見つかったときに確認の手順を直せます。

化学データの表記のばらつき

化学データは、同じ物質でも、IUPAC名、慣用名、商品名、CAS番号と書き方がばらばらです。

報告書ごとに書き方が違うと、AIが同じ物質の情報を別の物質として扱うことがあります。

単位も、重量パーセントと体積パーセント、摂氏とケルビンのように混在します。

社内資料をAIに読ませる前に、主な物質についてCAS番号と社内での呼び名の対応表を作ります。

表記をそろえる作業は時間がかかるため、最初に試す研究テーマの資料から始めます。

AIを使える人材の不足

AIを使える人材が社内に少ないと、ツールを入れても一部の社員しか使わない状態になります。

旭化成は、個人の利用と組織の業務に合わせた利用を分けて、生成AIの活用を支援しています。

個人の利用では、Microsoft 365 Copilotなどの既存のサービスを使い、従業員向けのデジタル教育の中に生成AIのコースを設けています。

組織の利用では、社内のシステム開発者向けに生成AIの利用基盤を公開し、各組織の担当者が業務に合わせたAIを作れるようにしています。

同社は、書類作成や社内資料の検索で業務全体の時間が月2,157時間減り、書類監査対応では年間1,820時間減ったと発表しています。

個人で使う研修と、部署の業務に合わせたAIづくりを分けて進めると、使う人と作る人の両方を社内に増やせます。

参考:生成AIを新規用途探索の自動化や製造現場の技術伝承において活用開始|旭化成

関連記事:製造業のAI活用でできることは?導入方法と失敗を防ぐポイント

文献調査から始める4つのステップ

化学業界でAIを導入するときは、文献調査のように効果を時間で測れる業務を1つ選び、4つのステップで進めます。

  • 調査に時間を取られている業務を数えて、試す業務を1つ選ぶ
  • 1つのテーマでAIを試し、調査の時間を比べる
  • 確認する人と基準を決めて、出力の誤りを防ぐ
  • 研修で使い方を部署に広めて、利用者を増やす

文献調査から始める理由は、AIを使う前と後の調査時間を比べやすく、AIの誤りが製品に直接届かないためです。

調査に時間を取られている業務を数える

最初に、研究開発や知財の担当者が、1か月に調査で何時間使っているかを数えます。

調査の種類ごとに、件数と1件あたりの時間を書き出します。

記入の例は次のとおりで、数値は仮の値です。

調査の種類 1か月の件数 1件あたりの時間 1か月の合計
競合の特許調査 4件 10時間 40時間
化合物の文献調査 6件 8時間 48時間
社内の過去資料の検索 20件 1時間 20時間

1か月の合計時間が長く、手順が毎回同じ調査を、AIで試す業務に選びます。

1つのテーマでAIを試す

選んだ調査業務のうち、1つの研究テーマだけでAIを試します。

試す期間は、調査が2〜3回行われる長さにすると、従来の方法と時間を比べられます。

試すときは、AIを使った調査と、従来の方法の調査を同じテーマで行い、かかった時間と見つかった文献の数を記録します。

AIが見落とした文献や、誤って拾った文献も数えます。

記録する項目は次のとおりです。

記録する項目 記録の仕方
調査にかかった時間 従来の方法とAIを使った方法で、それぞれ時間を記録する
見つかった文献の数 従来の方法で見つけた文献のうち、AIも見つけた数を数える
AIの誤り 存在しない文献、数値の誤り、物質の取り違えの件数を数える
担当者の確認時間 AIの出力を確かめるのにかかった時間を記録する
根拠の提示 答えに根拠の文献とページが示された割合を数える

確認にかかる時間も含めて比べると、AIで本当に減った時間が分かります。

時間が減り、見落としが許せる範囲に収まれば、対象のテーマを増やします。

確認する人と基準を決める

AIを業務で使う前に、出力を確認する人と、確認の基準を決めます。

確認の基準には、化合物名と数値は元の文献と照合する、根拠の文献が示されていない答えは使わない、などを入れます。

確認する人は、テーマに詳しい研究者か、知財部門の担当者にします。

SDSや顧客への回答のように社外に出る文書は、社内の承認手順を変えず、承認者が最終版を確認します。

研修で使い方を部署に広げる

1つのテーマで効果が出たら、研修で使い方を他の研究テーマや部署に広げます。

研修では、AIへの指示の書き方、入力してよいデータの一覧、出力を確認する基準の3つを教えます。

化学の調査では、化合物の指定の仕方や、調べる項目の指定の仕方で、AIの答えの質が変わります。

試行に参加した研究者が、自分の部署で使った指示の例を共有すると、他の社員が同じ水準で使えます。

研修のあとも、困ったときに相談できる担当者を部署ごとに置きます。

文献調査から始める4つのステップ

社内で進める範囲と専門家に頼む場面

化学業界のAI導入は、調査業務の洗い出しと、公開文献を使った試行までなら、社内の担当者で進められます。

社内で進められるのは、次のような作業です。

  • 調査に使っている時間を数え、試す業務を選ぶ
  • 公開されている特許や論文で、生成AIの要約と検索を試す
  • 入力してよいデータと、入力してはいけないデータの一覧を作る

専門知識が必要になるのは、次のような場面です。

  • 社内の報告書や実験記録を、外に漏らさない環境でAIに読ませる場面
  • 検索から報告書の作成まで、調査の一連の作業をAIエージェントに任せる場面
  • 研究所以外の部署にも、生成AIの使い方を研修で教える場面

社内の資料をAIエージェントに読ませる場面では、データの流れとアクセスの権限を決める作業が欠かせません。

どの資料を、どの部署の誰が、どのAIで読めるようにするかを決めないまま進めると、配合などの機密が社内の想定外の範囲に見えてしまいます。

AIエージェントに調査を任せる場面では、検索する文献データベース、出力する報告書の形、人が確認する手順の3つを決めてから作り始めます。

社員が自分で指示を書けるようになる研修は、試行の結果が出たあとに行うと、自社の調査の例を教材に使えます。

文献調査で試したAIの使い方を研究所や知財、営業の部署に教える段階では、malnaのAI導入支援サービスで生成AI研修についてご相談いただけます。

AIを使える人材が社内にいない場合

文献調査から試す順番はわかった。

でも、化学の言葉でAIへの指示を書き、出力を文献と照合する人が社内にいない。

化合物の指定の仕方ひとつで答えが変わるため、試行の最初の数週間に一緒に指示を作る人がいると、進めやすくなります。

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