2026.10.12

AI

証券会社のAI活用事例!社内業務から顧客対応へ広げるポイント

「社内の報告書や問い合わせ対応にAIを使いたいが、どの業務から始めればよいか分からない」
「お客様と直接やりとりするAIを出すと、勧誘の規制や情報管理が心配」

AIエージェント導入支援

こんなお悩みはありませんか。

社員だけが使う文書作成と、お客様に答えるチャットでは、確かめることの量がまるで違いますよね。

この記事では、証券会社がAIで効率化できる業務と各社の活用事例、生成AIを社内業務から顧客対応へ広げる順番を、金融庁の論点整理に沿ってわかりやすく解説します。

社員ごとに生成AIの使い方がばらばらで、どの業務から試すかを決めきれない場合は、malnaのAI導入支援サービスで研修からご相談いただけます。

AIの活用が証券業界で進む背景

証券会社のAI活用とは、社内文書の作成、問い合わせ対応、取引の確認などに生成AIや機械学習を使い、作業時間を減らす取り組みです。

背景には、社員が使う文書業務を中心に金融機関で生成AIの利用が進み、お客様に直接届く使い方の論点も金融庁が整理し始めたことがあります。

日本銀行は2026年8月、取引先の金融機関150先に行った生成AIのアンケート結果を公表しました。

調査の対象は銀行、信用金庫などで、証券会社だけを集計した数字ではありません。

結果では、約8割の金融機関が生成AIを利用しており、試行中を含めると9割強に達しています。

利用も試行もしていない先の割合は、2年前の4割強から1割弱に減りました。

文書作成の支援や議事録の文字起こしは大半の先が使っている一方、顧客応対のチャットボットでの利用は限られています。

意見交換の場では、AIの出力をお客様に直接見せる使い方に慎重な姿勢がみられたと報告されています。

金融庁も、2024年10月から11月に金融機関など130社へアンケートを行い、回答の1割強を金融商品取引業者が占めました。

AIを何らかの形で使う先のうち、7割以上が幅広い一般社員に生成AIの利用を認めています。

調査 対象と時期 主な結果
日本銀行のアンケート 取引先の金融機関150先・2026年度 約8割が生成AIを利用、試行中を含め9割強
金融庁のアンケート 金融機関など130社・2024年10〜11月 AIを使う先の7割以上が一般社員に生成AIの利用を認めている

金融庁は2026年3月3日に「AIディスカッションペーパー」の第1.1版を公表し、証券会社がAIを使うときの法令の論点にも触れています。

ディスカッションペーパーは、金融庁が金融機関に具体的な対応を求める文書ではなく、AIの使い方と課題を整理した資料です。

参考:金融機関における生成AIの利用状況とリスク管理―2026年度アンケート調査結果から―|日本銀行

参考:AIディスカッションペーパー(第1.1版)の公表について|金融庁

参考:AIディスカッションペーパー(第1.1版)(本文)|金融庁

AIで効率化できる5つの業務

証券会社でAIを使える業務は、社内の文書から顧客対応、取引の確認まで、次の5つに分けられます。

どの業務でも、AIが作るのは下書きや候補で、お客様に届く前の確認は社員が受け持ちます。

  • 社内文書の作成と要約で、規程や会議資料を読む時間を減らす
  • お客様からの問い合わせ対応で、回答案を作る時間を減らす
  • 営業担当者の面談記録で、記録の作成と確認を早める
  • 不正な取引の確認で、調べる取引の候補を先に出す
  • 投資情報とリサーチ資料の作成で、下書きと情報集めを早める

業務ごとに、AIに渡す情報と、人が確かめる点は次のとおりです。

業務 AIに渡す情報 人が確かめる点
社内文書の作成と要約 社内規程、会議の録音、商品資料 規程の版、数字の転記
問い合わせ対応 FAQ、手続きの説明資料 お客様へ送る前の回答の内容
面談記録 面談の録音やメモ 勧誘の記録としての正確さ
不正な取引の確認 取引データ、過去の確認結果 抽出された取引の最終判断
投資情報とリサーチ ニュース、決算資料、市場データ 数値、根拠、断定的な表現

社内文書の作成と要約

社内文書の作成と要約は、どの部署でも始めやすく、金融機関で利用がもっとも進んでいる業務です。

金融庁のアンケートでは、文書の要約、翻訳、校正の3つは、7割以上の金融機関がすでに導入していました。

証券会社には、社内規程、商品の説明資料、会議の議事録、海外の市場レポートなど、読む文書が多くあります。

社内規程や商品資料を読み込ませ、質問に答えさせる使い方もあります。

社内の文書を検索してから回答を作らせる技術は、RAG(検索拡張生成)と呼ばれます。

金融庁の資料には、社内規程や商品パンフレット、顧客向けFAQをクラウドで一元管理し、RAGで回答を作る試行例が載っています。

回答には参照した規程の名前と版を出させ、社員が原文を開いて確かめられる形にします。

参考:AIディスカッションペーパー(第1.1版)(本文)|金融庁

お客様からの問い合わせ対応

お客様からの問い合わせ対応では、コールセンターや有人チャットの担当者が使う回答案をAIに作らせます。

口座開設、入出金、NISAの手続きなど、同じ質問が繰り返し届く手続きの案内は、回答案を作りやすい分野です。

金融庁の資料によると、コールセンター業務などに生成AIを入れた先でも、出力をお客様に直接見せず、人の判断を通す使い方が大半でした。

担当者は、AIの回答案を読み、手数料や期限などの数字を確かめてから送ります。

回答案を直した件数と理由を記録しておくと、FAQのどこを書き直すかが分かります。

参考:AIディスカッションペーパー(第1.1版)(本文)|金融庁

営業担当者の面談記録

営業担当者の面談記録では、お客様との面談や電話の内容から、記録の下書きをAIに作らせます。

面談記録は、どの商品をどう説明したかを後から確かめるための書類です。

録音から下書きを作らせれば、営業担当者は面談の直後に要点を見直すだけで登録まで進められます。

金融庁の資料には、金融商品を販売したときの応接記録から、コンプライアンス違反が疑われるものを抽出する事例が載っています。

AIが作った下書きは、営業担当者が面談の内容と照らし合わせてから登録します。

面談の内容には、上場会社の未公表の情報などが含まれる場合があるため、記録を読める社員の範囲を先に決めます。

参考:AIディスカッションペーパー(第1.1版)(本文)|金融庁

不正な取引の確認

不正な取引の確認では、不公正な取引の防止や、マネー・ローンダリング対策で調べる取引の候補をAIに抽出させます。

金融庁のアンケートでは、生成AIの使い道として、マネー・ローンダリング対策や不公正取引の防止も挙がっています。

取引の件数が多いほど、担当者が1件ずつ見る方法では時間が足りなくなります。

取引の監視では、生成AIより前からある機械学習のAIに過去の取引記録を学ばせ、抽出の条件を改める使い方を検討している先もあります。

AIが出すのは調べる候補であり、不正かどうかの判断は担当者が行います。

抽出しなかった取引に問題がなかったかを、定期的に抜き取りで確かめる手順も決めておきます。

参考:AIディスカッションペーパー(第1.1版)(本文)|金融庁

投資情報とリサーチ資料の作成

投資情報とリサーチ資料の作成では、ニュースや決算資料の要約と、市況コメントの下書きをAIに作らせます。

金融庁の資料によると、資産運用や証券業務では、ニュースやSNSの投稿を分析して市場の雰囲気を読み取る使い方が代表的です。

為替や金利の予測、ポートフォリオの最適化にもAIが使われています。

下書きの数字は、決算短信などの元の資料と照らし合わせてから使います。

お客様向けの資料に「必ず上がる」のような断定的な表現が入っていないかも、公開の前に確かめます。

参考:AIディスカッションペーパー(第1.1版)(本文)|金融庁

関連記事:バックオフィスの生成AI活用事例!導入方法と注意点も解説

証券会社でAIを使える5つの業務

証券会社のAI活用事例

証券会社のAI活用事例は、社員が使う生成AIの導入と、お客様に直接届くサービスの開発の2つに分けられ、各社がプレスリリースで公表しています。

公表された5つの事例は次のとおりです。

  • SBI証券のChatGPT Enterprise導入で、社員が使う法人向けの生成AIを入れた
  • 野村ホールディングスとOpenAIの連携で、リサーチと新サービスの開発を進める
  • 松井証券のチャットサポート刷新で、お客様の質問に追加の質問を返す
  • 楽天証券の投資AIアシスタントで、利用者を限って試験運用した
  • SBI証券とRidge-iの生成AIチャネル開発で、投資の相談に応じる窓口を作る

お客様が使う3つの事例は、利用者を限った試験運用、外部企業との協業、既存のAIチャットの刷新という形で進められています。

各社の公表資料は導入や開発の方針を示すもので、導入後の効果の数字は載っていません。

会社 公表日 使う人
SBIホールディングス・SBI証券 2025年5月1日 社員
野村ホールディングス 2025年11月28日 社員、お客様向けの新サービス
松井証券 2026年3月19日 お客様
楽天証券 2023年7月19日 お客様
SBI証券・Ridge-i 2025年9月26日 お客様

SBI証券のChatGPT Enterprise導入

SBIホールディングスとSBI証券は2025年5月1日、OpenAIの法人向けサービス「ChatGPT Enterprise」の導入を発表しました。

SBI証券では2025年1月から導入済みで、SBIホールディングスは2025年3月から一部の役職員を対象に使い始めています。

SBIホールディングスは2023年7月に、生成AIの専門組織「SBI生成AI室」を作っていました。

発表では、業界動向の分析、意思決定の支援、大量の文書の要約や分析に使うとしています。

専門組織を置いてから約1年半後に、SBI証券で法人向けのサービスを使い始めた流れです。

参考:SBIグループにおけるOpenAIの「ChatGPT Enterprise」導入開始のお知らせ|SBIホールディングス・SBI証券

野村ホールディングスとOpenAIの連携

野村ホールディングスは2025年11月28日、OpenAIとの戦略的連携を始めたと発表しました。

連携では、調査の計画から情報のまとめまでを自動で行うOpenAIの「Deep Research」の利用を始めます。

あわせて、OpenAIの戦略・技術の支援を受け、新しいサービスの開発と導入を進めます。

野村は、社内に持つデータと外部の最新情報を組み合わせ、投資のアドバイスや市場分析を高めるとしています。

発表には、金融機関に求められるセキュリティとガバナンスを確保したうえで進めると書かれています。

参考:OpenAIとの戦略的連携を開始|野村ホールディングス

松井証券のチャットサポート刷新

松井証券は2026年3月19日から、AIチャットを刷新しました。

刷新では、PKSHA Technologyの「PKSHA ChatAgent」が持つ対話AIエージェント機能を入れています。

松井証券は、電話、有人チャット、24時間365日対応のAIチャットを用意しています。

刷新の理由は、FAQの検索やチャットで、お客様が質問の言葉を思いつけず、答えにたどり着けない場面が増えたことです。

新しいAIチャットでは、あいまいな質問や情報の足りない問い合わせに、生成AIが追加の質問を返します。

参考:松井証券、最新の対話型AIエージェントの導入でAIチャットサポートを強化|松井証券

楽天証券の投資AIアシスタント

楽天証券は2023年7月19日、ChatGPTを使ったチャットサービス「投資AIアシスタント(β版)」の提供を始めました。

投資の基礎知識や、利用者のレベルに合う投資方法、自社メディアのおすすめ記事を答えるサービスです。

2023年9月までの予定で試験運用とし、先着順で利用者数に上限を設けました。

1日の利用上限に達すると、当日の利用は終了となる形です。

ChatGPTは、Microsoft Azure上の「Azure OpenAI Service」を使い、楽天のセキュリティ基準のもとで運用するとしています。

試験の期間と利用者の数を限り、検証の結果を見て正式版を考える進め方です。

参考:生成AI活用のチャットサービス「投資AIアシスタント(β版)」提供開始|楽天証券

SBI証券とRidge-iの生成AIチャネル開発

SBI証券とRidge-iは2025年9月26日、生成AIを使った新しい窓口の開発で協業を始めたと発表しました。

想定するサービスは、商品やサービスの質問に答えるチャット、注文や各種変更の手続きの手伝い、市場分析やポートフォリオの相談などです。

SBI証券が持つアクセスの記録、取引の履歴、お客様の属性の情報を、Ridge-iと共同で分析します。

今後の展開として、SBIホールディングスからAI人材がRidge-iへ出向するなど、人材の交流も進めるとしています。

参考:SBI証券とRidge-iによる次世代の生成AIチャネル開発に向けた協業開始のお知らせ|SBI証券・Ridge-i

社内業務から顧客対応へ広げる3つの段階

生成AIは、社員だけが使う業務から始め、お客様に直接届くサービスへ段階を踏んで広げると、誤りが社外に出る範囲を段階ごとに抑えられます。

金融庁の第1.1版は、生成AIの使い方を、社内での利用、お客様向けサービスへの間接的な利用、直接的な利用の3つに分類しています。

3つの分類と、金融庁の資料が紹介する取組事例をもとにすると、次の順で進められます。

  • 社員だけが使う文書業務で、汎用の生成AIから使い始める
  • 営業担当者を支える使い方で、社員が確かめた回答だけをお客様へ届ける
  • 顧客と直接やりとりするサービスで、AIの回答をそのままお客様に見せる

アンケートでは、社内での利用にとどまる先が多く、今後お客様向けの活用を考える先も半数以上ありました。

金融庁の資料には、事務的な手続きからAIを使い始め、リスクと対応の経験をためながら、金融取引などの中心の業務へ広げる取組事例が載っています。

分類は全社に一律の手順を求めるものではないため、段階を進める時期は自社のリスクの大きさで決めます。

段階 使い方の例 次の段階へ進む条件
社員だけが使う 要約、翻訳、校正、議事録 入力のルールが守られ、使う社員が増えている
営業担当者を支える 回答案、面談記録、資料の下書き 社員が直した件数と理由を記録できている
お客様と直接やりとり AIチャット、手続きの案内 4つの局面のリスク対策と法令の確認が済んでいる

参考:AIディスカッションペーパー(第1.1版)(本文)|金融庁

社員だけが使う文書業務

最初の段階は、社員だけが使う文書業務で、汎用の生成AIを要約、翻訳、校正に使います。

金融庁の資料によると、多くの金融機関が、導入しやすい汎用の生成AIを先に入れ、文書の作成や要約から使い始めています。

AIの出力が社外へ出ないため、誤りがあっても社員が直せる範囲で済みます。

段階を進める前に、入力してよい情報のルールを守れているか、使う社員が増えているかを確かめます。

参考:AIディスカッションペーパー(第1.1版)(本文)|金融庁

営業担当者を支える使い方

2つ目の段階は、AIが作った回答案や資料を、営業担当者やコールセンターの担当者が確かめてからお客様に届ける使い方です。

金融庁の分け方では、お客様向けサービスへの間接的な利用にあたります。

社内規程や商品資料を参照させるRAGを使うと、自社の商品や手数料に沿った回答案を作りやすくなります。

担当者が回答案を直した件数と理由を記録し、AIの誤りがどの種類の質問で起きるかをつかみます。

記録から誤りの起きやすい質問が分かれば、お客様に直接見せてよい質問と、人が答える質問を分けられます。

参考:AIディスカッションペーパー(第1.1版)(本文)|金融庁

顧客と直接やりとりするサービス

3つ目の段階は、AIの回答を人の確認を通さずにお客様へ見せる、AIチャットなどのサービスです。

金融庁の資料では、技術が進めば、出力をお客様に直接見せる使い方が中長期的に増える可能性も示されています。

松井証券のAIチャットや、楽天証券の投資AIアシスタントは、お客様が直接AIとやりとりする例です。

楽天証券のように、期間と利用者数を限った試験運用から始めると、問題が起きたときに影響する範囲を限れます。

お客様に直接届くため、設計と事前の検証、お客様への説明、会話の記録、全社の管理体制を先に決めます。

参考:AIディスカッションペーパー(第1.1版)(本文)|金融庁

生成AIを顧客対応へ広げる3つの段階

AIエージェント導入支援

顧客向けに使う前の4つのリスク対策

お客様向けにAIを使う前のリスク対策は、金融庁の第1.1版が示す4つの局面に分けて決めると、抜けが出にくくなります。

金融庁は、金融機関の取組みを、サービスの前、提供するとき、提供した後、全体を支える体制の4つに分けて整理しました。

  • 設計と事前の検証で、回答の範囲を決めてテストする
  • 顧客への説明と注意喚起で、AIの回答であることを伝える
  • 会話の記録と見直しで、不適切な回答を見つけて直す
  • 全社で管理する体制で、経営陣から現場までの役割を決める

4つの局面は、AI官民フォーラムで金融機関が共有した取組みをもとに、金融庁が相談や照会に対応するときに参照するものとして整理されています。

金融機関に一律の対応を求める基準ではないため、自社のサービスの内容に合わせて対策の重さを決めます。

参考:AIディスカッションペーパー(第1.1版)(本文)|金融庁

参考:AIディスカッションペーパー(第1.1版)(概要資料)|金融庁

設計と事前の検証

設計と事前の検証では、AIが答えてよい範囲を決め、お客様に出す前にテストします。

金融庁の資料には、システムへの指示やRAGで回答の範囲を限る方法、より高性能なモデルを選ぶ方法が挙がっています。

投資の勧誘の場面で「必ず儲かる」のような断定的な判断を示さないよう、回答に重ねてフィルタを設ける検討もされています。

サービスの導入期には、AIの対応と人の対応をお客様が選べる形にする方法も示されています。

テストでは、手数料、税金、損失の可能性など、誤ると影響の大きい質問を先に試します。

AIが答える範囲は、手続きの案内、一般的な投資の知識、個別の商品のおすすめ、注文の手続きに分けて決めます。

個別の商品のおすすめと注文の手続きは、人が対応する範囲から始めると、勧誘や誤発注の論点を後から検討できます。

参考:AIディスカッションペーパー(第1.1版)(本文)|金融庁

顧客への説明と注意喚起

顧客への説明と注意喚起では、お客様がAIとやりとりしていることと、回答に誤りが含まれうることを、利用の前に伝えます。

金融庁の資料には、手続きの途中でお客様の理解を確かめ、理解が確かめられない限り次に進めない設計が例として載っています。

回答の根拠や情報の出どころを示すことも挙がっています。

お客様が望めば、いつでもAIの対応から人の対応へ移れるようにします。

松井証券のように電話や有人チャットを残しておくと、AIで解決しない問い合わせの受け皿になります。

参考:AIディスカッションペーパー(第1.1版)(本文)|金融庁

会話の記録と見直し

会話の記録と見直しでは、AIとお客様の会話を保存し、不適切な回答がないかを確かめます。

金融庁の資料では、リスクの高い場面を中心に会話の記録を残し、必要ならお客様にあとから連絡する体制が挙がっています。

AIが特定の金融商品に偏った勧誘をしていないかを、数字で確かめる方法も示されています。

おすすめの理由を決めるロジックを文書にし、第三者が見直す方法もあります。

見直しで見つかった問題は、AIへの指示やFAQの修正に反映します。

参考:AIディスカッションペーパー(第1.1版)(本文)|金融庁

全社で管理する体制

全社で管理する体制では、経営陣を含めた全社の体制を作り、現場の社員までAIの知識を高めます。

金融庁の資料は、AIの使い道に応じてリスクの大きさを見分け、対策の重さを変える考え方を示しています。

達成するゴールを先に決め、企画から運用、見直しまでの各段階でリスクを管理する進め方です。

お客様向けのAIは、コンプライアンス部門、システム部門、お客様の窓口となる部門が、公開の前と後に確認する役割を決めます。

参考:AIディスカッションペーパー(第1.1版)(本文)|金融庁

証券会社が確かめる法令と情報管理

証券会社がAIを使うとき、既存の法令はAIを使うかどうかに関係なく適用されます。

金融庁の第1.1版は、証券会社が顧客の会話データを生成AIに入れ、営業の支援やお客様への商品のおすすめに使う場面を想定し、論点を挙げています。

  • 金融商品の勧誘にあたるかを、AIの使い方ごとに判断する
  • 法人関係情報の管理を、会話データを扱う社員の範囲まで決める
  • 生成AIに入力する個人データを、委託先の管理として扱う

自社の使い方が法令に合うかの最終判断は、弁護士や社内のコンプライアンス部門に確かめます。

参考:AIディスカッションペーパー(第1.1版)(本文)|金融庁

金融商品の勧誘にあたるか

生成AIがお客様に直接金融商品をすすめる場合、金融商品取引法の「勧誘」にあたるかが論点になります。

金融庁の資料によると、「勧誘」とは一般に、金融取引に誘うことを目的に、特定の利用者を対象として行う行為です。

AIを使う場合も、同じ考え方が当てはまるとしています。

AIが勧誘にあたるかは、個別の事案ごとに実質で判断されます。

金融機関は、まずAIとデータを使う目的、使い方、お客様への働きかけの内容を具体的に特定する必要があります。

SBI証券とRidge-iが目指すような、お客様に合う提案を届ける窓口は、勧誘の判断が関わる使い方です。

参考:AIディスカッションペーパー(第1.1版)(本文)|金融庁

法人関係情報の管理

法人関係情報について、証券会社は法令で、不公正な取引を防ぐための管理の措置を求められています。

お客様との会話データには、法人関係情報が含まれる可能性があります。

金融庁の資料は、会話データを分析する社員にアクセス権を与えることだけで、直ちに管理が不適切と判断されるわけではないとしています。

ただし、管理の態勢が適切かは個別の事案ごとに判断され、データを使う目的や情報管理の手続きを具体的に決めることが前提です。

日本証券業協会の規則では、法人関係部門を他の部門から物理的に隔離するなど、業務に必要のない部門へ情報が伝わらない管理が求められています。

システムの子会社にAIの開発を委託する場合の非公開情報の受け渡しについても、金融庁の資料に考え方が示されています。

参考:AIディスカッションペーパー(第1.1版)(本文)|金融庁

生成AIに入力する個人データ

社外の生成AIサービスにお客様の情報を入力する場合、通常は、生成AIの提供者を、個人データの取扱いを任せる委託先として管理する必要があります。

金融庁の資料によると、サービスを選んで契約するときに、預けた個人データが金融機関の指示なしに追加の学習に使われないことなどを確かめる必要があります。

金融機関の取組み例として、次のようなものが挙がっています。

  • 個人情報を生成AIに入力しないよう、全職員に文書で呼びかける
  • 顧客情報の入力をシステムで自動的に止める方法を検討する
  • 入力したデータが再学習に使われない専用の環境を作る
  • 外部のベンダーと契約書や覚書で、データを扱う範囲を書面にする
  • 問題が起きたときにたどれるよう、操作の記録を残す

参考:AIディスカッションペーパー(第1.1版)(本文)|金融庁

AI導入を社内に定着させる進め方

AIを社内に定着させるには、推進する部署、入力のルール、職種ごとの研修、効果の数え方の4つを、導入と同時に決めます。

4つは、社員だけが使う段階でも、お客様向けの段階でも共通して必要になる決めごとです。

  • 推進する部署の決め方で、誰が全社の判断をするかを決める
  • 入力してよい情報のルールで、社員が入れてよい情報を分ける
  • 職種ごとの人材育成で、業務に合う使い方を教える
  • 効果を数える項目で、続けるか広げるかを判断する

4つを社員だけが使う段階で決めておけば、お客様向けの段階へ進むときに一から作り直さずに済みます。

推進する部署の決め方

推進する部署は、全社のAI導入を判断し、各部署の使い方をそろえる役割を持ちます。

日本銀行の2026年度の調査では、生成AIを利用中または試行中の136先のうち、推進の形は次のとおりでした。

推進の形 割合
経営直下の推進組織が全社を統括 20.6%
DXやITなど特定の開発部門が全社の導入を判断 65.4%
現場の業務部門ごとに導入を判断 8.8%

調査の対象は銀行、信用金庫などの金融機関で、証券会社だけの数字ではありません。

日本銀行は、各金融機関が組織の特性や人材などの経営資源を踏まえて推進体制を検討しているとみています。

専門の部署を作る余裕がない場合は、一例として、システム部門とコンプライアンス部門の担当者を1人ずつ決め、2人で検討する形から始められます。

2人で検討する場合も、最終的に導入を決める役員を1人決めておきます。

参考:金融機関における生成AIの利用状況とリスク管理―2026年度アンケート調査結果から―|日本銀行

入力してよい情報のルール

入力してよい情報のルールは、社員が生成AIに何を入れてよいかを、情報の種類ごとに決めたものです。

証券会社では、次の3つに分けると、社員が入力の前に判断しやすくなります。

区分 情報の例 扱い
入力してよい 公表済みの資料、社内の一般的な文書 社内で認めた生成AIに入力できる
加工すれば入力してよい 問い合わせの文面、面談のメモ 氏名や口座番号を消してから入力する
入力しない お客様の個人情報、法人関係情報、未公表の決算情報 生成AIに入れない

ルールは、使ってよい生成AIのサービス名と一緒に、社員が見る場所に掲示します。

社外の生成AIサービスでは、入力したデータが学習に使われない契約や設定かを、導入の前に確かめます。

職種ごとの人材育成

人材育成では、全社員に共通で教える内容と、職種ごとに使う場面を分けて研修を作ります。

金融庁のアンケートでは、社員の指示文を作る力が壁になり、利用が期待ほど進まないと答えた先がありました。

一方で、社内の勉強会やアイデアのコンテストで利用が広がったと答えた先も多数ありました。

職種 研修で扱う使い方
営業担当者 面談記録の下書き、面談前の資料の要約
コールセンター 回答案の作成と、送る前に確かめる項目
管理部門 社内規程の検索、議事録、翻訳
コンプライアンス部門 広告や資料の表現の確認、応接記録の点検

研修では、入力してよい情報のルールと、AIの出力で必ず確かめる項目を、どの職種にも同じ内容で教えます。

参考:AIディスカッションペーパー(第1.1版)(本文)|金融庁

関連記事:課題別のおすすめ生成AI研修10選|選び方から助成金・定着設計まで解説

効果を数える項目

効果を数える項目は、AIを続けるか、次の段階へ広げるかを決めるときの根拠になります。

作業時間だけでなく、社員が直した件数も数えると、次の段階へ進めてよいかが分かります。

数える項目 分かること
業務1件あたりの作業時間 AIで減った時間
使った社員の数と回数 社内に定着しているか
社員がAIの出力を直した件数 誤りが起きやすい業務と質問
お客様が有人対応へ移った割合 AIチャットで解決できない問い合わせの量

日本銀行の調査では、生成AIの評価はおおむね良好で、どの使い道でも「業務に利用できるが、改善の余地がある」との回答が過半でした。

評価が良い理由として、生成AIの性能の高さと、誤った回答が出る特性への利用者の理解を挙げる声がありました。

数字は導入の前に1か月分を取っておき、導入後の同じ期間と比べます。

参考:金融機関における生成AIの利用状況とリスク管理―2026年度アンケート調査結果から―|日本銀行

AIを社内に定着させる4つの決めごと

中小の証券会社がAIを始めるときの相談先

中小の証券会社がAIを始めるときは、大手と同じ規模の連携から入らず、汎用の生成AIを社員の文書業務に使うところから始められます。

金融庁のアンケートでは、約半数の金融機関が、汎用の生成AIをそのまま使っていると答えています。

入力のルールを決め、文書の要約や議事録に使い、効果を数える作業は、社内で進められます。

始める前に社内で決めておくものは、利用の規程、入力してよい情報の区分、テスト用の質問集、会話の記録の保存期間、問題が起きたときの連絡先の5つです。

専門知識が必要になるのは、次のような場面です。

  • 社内規程や商品資料を参照して回答案を作るAIエージェントを設計する場面
  • お客様の情報や法人関係情報が入るデータの扱いを、システムの設定と契約で決める場面
  • 職種ごとに違う使い方を、研修で全社員にそろえる場面

参考:AIディスカッションペーパー(第1.1版)(本文)|金融庁

関連記事:AIエージェントの開発方法!必要な技術と費用・外注時の注意点

社員だけが使う段階から、回答案を作るAIエージェントへ進める段階では、どの業務をAIに渡すかの棚卸しが先になります。

malnaの成果報酬型AIエージェント構築支援では、業務の棚卸しと削減できる工数の見積もりからご相談いただけます。

AIを使える人材が社内にいない場合

社内から顧客向けへ広げる順番はわかった。

でも、お客様との会話の記録を読み、規制に触れる回答がないかを点検できる人が社内にいない。

お客様向けの段階へ進むほど、コンプライアンスの確認とAIへの指示の修正を両方担える担当者が欠かせません。

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