2026.09.28
漁業のAI活用方法!漁獲報告や販売の事務負担を減らすには
農林水産省の令和7年漁業構造動態調査によると、令和7年11月時点の漁業就業者数は10万9,820人で、前年から4.4%減りました。人は減っても、水揚げのたびに生まれる記録や報告、出荷先との連絡、補助金の書類といった陸の仕事は減りません。

目次
漁業のAI活用と聞くと、漁場の予測や魚の選別といった海の上の話を思い浮かべるかもしれません。本記事が扱うのは、水揚げのあとに陸で発生する事務の仕事です。漁の判断や魚の扱いは漁業者の手に残したまま、書類の下書きと整理をAIに渡せば、漁の合間の時間を取り戻せます。
本記事では、水揚げ後の業務の流れに沿って、AIに任せられる5つの場面と、漁業者が自分で判断すべき部分、小さく始めるための3段階を解説します。沿岸漁業や養殖業を営む経営者、漁協の事務担当者の方に向けた内容です。
報告と販売のどちらの書類から手を付けるかで、最初の一か月の進め方は変わります。malnaへの問い合わせでは、その順番を決めるところから話を聞いています。
漁業で陸の事務が重くなっている理由
漁業で陸の事務が重くなっている背景には、担い手の減少と、法改正で求められる報告の増加という2つの事情があります。
就業者が減り、1人あたりの仕事が増えている
令和7年度水産白書によると、漁業就業者数は一貫して減り続けています。一方で、令和6年度の新規就業者は1,754人で、39歳以下が6〜7割を占める状態が続いています。
ベテランが頭の中で覚えている書類の書き方や取引先ごとの流儀を若手に伝えるには、相応の時間がかかります。人数が減るほど、経営者や家族1人あたりの陸の仕事は増えていきます。
参考:令和7年度 水産白書 第1部第2章(水産庁・PDF)
参考:令和7年漁業構造動態調査結果(農林水産省・PDF)
改正漁業法で報告の義務が広がった
令和2年12月1日の漁業法の改正にともない、特定水産資源の漁獲量の報告や、漁業権漁業・許可漁業の資源管理の状況などの報告が義務づけられました。島根県の案内では、漁獲割当の対象となる資源は陸揚げ日から3日以内に漁獲量や陸揚げ日を報告するなど、区分ごとに報告の期日と内容が定められています。
報告先や期日、様式は都道府県や漁業の種類で異なるので、実際の運用は地元の県や漁協の案内で確かめてください。島根県では、漁獲割当のない区分なら、報告の期日は通常、陸揚げした月の翌月10日までです。漁協に委任して、漁協から代わりに報告してもらう方法もあります。自分で報告を出している場合は、決まった項目を期日までにそろえる作業が負担になります。
水揚げ後の業務でAIに任せられる5つの場面
水揚げから出荷、申請、情報共有までの流れの中で、AIに任せやすいのは文章をそろえる作業と記録を整理する作業です。業務の流れに沿って5つの場面を紹介します。

場面1 水揚げの記録を報告用に整える
手帳や表計算に書き留めた漁獲量・魚種・陸揚げ日を、報告に必要な項目の並びに整え直す作業は、AIに向いた仕事です。記録をそのまま渡して、報告様式の項目ごとに並べ替えた下書きを作らせる使い方ができます。
報告の最終的な数値は漁業者自身が確認して提出します。AIが担うのは、ばらばらの記録を報告の形にそろえるところまでです。
報告の区分によって期日が違う場合は、水揚げのたびに「どの区分の報告を、いつまでに出すか」を一覧にした控えを作らせておくと、出し忘れを防ぎやすくなります。一覧の元になる区分と期日は、県や漁協から届いた案内をそのまま渡して整理させるのが確実です。
場面2 市場・仲買・出荷先への連絡文を用意する
出荷量の見込みや到着時刻の連絡、規格の確認など、市場や仲買、加工業者とのやり取りには、毎回似た形の文面が多く含まれます。過去の連絡文を参考に下書きを作らせれば、あとは数字と日付を確かめて送るだけです。
時化で出漁できなかった日の連絡や、水揚げが予定より多かった日の相談など、状況に応じて書き分けたい連絡も、状況を一言伝えるだけで下書きの型をそろえられます。
出荷先ごとに好まれる書き方や、確認してほしい項目の順番が違うこともあります。取引先ごとに過去の連絡文を1〜2通ずつ残しておき、それを参考に下書きさせると、相手に合わせた文面を毎回考え直す手間が減ります。
場面3 直販やふるさと納税の商品説明を書く
自分で獲った魚や養殖した魚を直販サイトやふるさと納税の返礼品として出す場合、商品の紹介文や発送案内の文章が必要になります。漁法や鮮度の保ち方、食べ方の提案といった漁業者にしか書けない情報をメモで渡せば、紹介文の構成案を素早く用意できます。
旬の時期ごとに扱う魚が変わる直販では、季節が変わるたびに紹介文を書き直す必要があります。前の季節の紹介文と今季の漁の様子を渡して書き分けさせれば、ページの更新が止まりにくくなります。発送時期や保存方法の案内のように毎回ほぼ同じになる文章は、ひな形として残しておくと便利です。
場面4 補助金や経営計画の書類のたたき台を作る
漁船や漁具の更新、加工設備の導入などで補助事業に申請する場合、事業計画をはじめとする書類の作成が求められます。過去に提出した書類や、漁協・自治体から受け取った記入例を渡しておけば、申請書のたたき台を作る時間を短くできます。
制度の要件や様式は年度ごとに変わることがあるため、申請内容の最終確認は、漁協や自治体の担当窓口で必ず行う必要があります。
申請書には、経営の現状、設備を導入する理由、導入後の見通しといった項目が並ぶことが多く、書く材料そのものは漁業者の頭の中にあります。思いつくままに話した内容をAIに整理させ、項目ごとに振り分けた下書きにしてから清書する流れにすると、白紙の様式を前に手が止まる時間を減らせます。
場面5 新しい乗組員や家族に手順を伝える資料を作る
新規就業者の6〜7割が39歳以下という状況では、ベテランが口頭で伝えてきた準備や片付けの段取り、取引先ごとの約束事を、紙やデータで残しておく価値が高まっています。ベテランに話してもらった内容をAIに整理させ、手順書の形にまとめる使い方ができます。
漁協の事務担当者にとっても、組合員からの問い合わせへの回答文や、会議の資料、報告の取りまとめの案内など、似た文章を何度も書く仕事は少なくありません。漁協のこうした文章も、組合員の書類と同じように、過去の文面を渡してAIに下書きを作らせれば手間を減らせます。
関連記事:農業のAI活用事例を紹介!導入の進め方と注意点も解説
漁業者が自分で判断すべき部分
AIに任せられる場面が増えても、漁の判断、魚の扱い、報告と取引の最終的な中身は、漁業者自身が決める必要があります。
| 場面 | AIに任せてよい範囲 | 漁業者が自分で決める範囲 |
|---|---|---|
| 漁獲の報告 | 記録を報告の項目に並べ替えた下書き | 報告する数値の確認と提出 |
| 出荷先との連絡 | 連絡文の下書き | 数量・価格・納期の約束 |
| 直販の商品説明 | 紹介文の構成案 | 品質や産地に関する記載の正確さ |
| 補助金の書類 | 申請書のたたき台 | 要件の確認・提出前の最終確認 |
| 手順書 | 話した内容の整理 | 安全に関わる手順の正しさ |
報告の数値や取引の約束を間違えれば、行政や取引先との信頼に直結します。AIの下書きを見直す担当を決め、そのまま提出したり送ったりしない運用にしておいてください。

小さく始めるための3段階
漁業の事務にAIを入れるなら、全部を一度に変えようとせず、1つの書類から試すほうが長続きします。

第1段階 1週間の陸の仕事を書き出す
最初に、水揚げ後の記録、報告、連絡、申請、発信のうち、どの作業にどれだけ時間がかかっているかを1週間ほど書き出します。報告が重いと感じていたのに、書き出してみると出荷先との連絡の方に時間を取られていた、ということも珍しくありません。
第2段階 1つの書類だけで試す
書き出した中から、毎週決まって発生し、書く内容がある程度決まっている書類を1つ選びます。報告用の記録の整理や、出荷先への定型の連絡が向いています。AIに渡してよい情報の範囲もこの段階で決めておきます。
第3段階 やり方を家族や乗組員と共有する
効果が確認できたら、やり方を家族や乗組員と共有します。経営者が漁に出ている間も同じ手順で書類を整えられる状態を作れれば、事務の負担が1人に集中しにくくなります。
効果を確かめるときは、その書類1件にかかっていた時間を、AIを使う前と後で書き比べておくと分かりやすくなります。浮いた時間が網の手入れや次の出漁の準備に回せているかどうかも、続けるかどうかを決める材料になります。
導入時に気をつけたいこと
漁業の事務にAIを使う際には、情報の扱いと、外に出す文章の表現に注意が必要です。
取引条件や個人情報の扱い
出荷先との価格、漁獲量、家族の情報などは、外部に出したくない情報です。AIツールに入力してよい情報の範囲を先に決め、取引先の名前や金額を記号に置き換えてから下書きを作らせるなどの工夫を運用に組み込んでおくと安心です。
産地や品質の表示
直販や返礼品の紹介文をAIで作る場合、産地や漁法、鮮度について事実と異なる表現や、根拠のない「日本一」「最高級」といった表現が紛れ込んでいないかを、公開前に必ず確認します。食品の表示には守るべきルールがあるため、表示の内容に迷う場合は自治体や専門家に確認してください。
よくある質問
漁業でAIを使うとき、最初に試すなら何がよいですか?
毎週決まって発生し、書く内容がある程度決まっている書類から試すのがよいでしょう。水揚げ記録を報告用に整える作業や、出荷先への定型の連絡が向いています。
漁獲の報告をAIに任せても大丈夫ですか?
記録を報告の項目に並べ替えた下書きまではAIに任せられますが、報告する数値の確認と提出は漁業者自身が行う必要があります。報告の様式や期日は地元の県や漁協の案内で確認してください。
家族経営の小さな漁業者でもAIは使えますか?
使えます。1つの書類から試し、効果が確認できたらやり方を家族や乗組員と共有する進め方なら、大きな準備がなくても始められます。
直販の商品説明をAIで作るときの注意点はありますか?
産地や漁法、鮮度について事実と異なる表現や、根拠のない最上級表現が入っていないかを公開前に必ず確認します。表示の内容に迷う場合は自治体や専門家に確認してください。
まとめ
漁業のAI活用は、海の上の判断ではなく、水揚げ後の記録と報告、出荷先との連絡、直販の商品説明、補助金の書類、手順書づくりという陸の事務から始めるのが現実的です。漁の判断や報告の数値、取引の約束は漁業者が決めるという線を保ったまま、1つの書類から小さく試していきましょう。
水揚げから出荷までのどこに時間を取られているかが分かれば、次の一手は決めやすくなります。書き出した結果をmalnaへの問い合わせに添えていただくと、話が早く進みます。
AIを使える人材が社内にいない場合
陸の仕事から減らす道筋は見えた。でも、漁の合間に書類の仕組みを整えてくれる人がいない。
出漁と水揚げで一日が埋まるなかでは、書類の流れを組み直す時間そのものが取りにくいものです。malnaでは、AI活用の実務経験を持つ人材をご紹介するAIタレント名鑑を運営しています。採用ではなく業務委託として、週1日から相談いただけます。

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