2026.10.12

AI

新聞社のAI活用事例!導入方法と記事の信頼を守る社内ルール

「人が減って、取材音声の文字起こしや校閲が締め切りに間に合わない」
「AIを使いたいが、誤った記事を出して読者の信頼を失うのが怖い」

AIエージェント導入支援

こんなお悩みはありませんか。

作業を減らしたい気持ちと、誤報を出したくない気持ちの両方があると、AIをどの作業から使えばよいか決められないですよね。

この記事では、新聞社の編集局でAIを使える5つの場面と各社の事例、記事の信頼を守る社内ルール、導入の4つのステップをわかりやすく解説します。

自社の編集局でどの作業からAIを試すかの整理は、malnaのAI導入支援でご相談いただけます。

新聞社でAI活用が求められる理由

新聞社のAI活用とは、記事を作る前後の作業にAIを使い、記者と編集者が取材と判断に使う時間を増やす取り組みです。

対象になるのは、取材音声の文字起こし、原稿の校閲、外部情報の収集と要約、定型記事の下書き、過去記事の検索などです。

AI活用が求められる理由は、新聞の発行部数が減るなかで、少ない人数で紙とデジタルの両方に記事を出す必要があることです。

日本新聞協会の調べでは、新聞の合計発行部数は、2020年の35,091,944部から2025年の24,868,122部に減りました。

5年間で約1,022万部、率にして約29%の減少です。

2025年の1世帯あたりの部数は0.42部でした。

項目 以前の値 最新の値 調査時点
新聞の合計発行部数 35,091,944部(2020年) 24,868,122部(2025年) 各年10月
新聞・通信社の従業員数 42,254人(2016年・97社) 31,312人(2026年・89社) 各年4月

従業員数も、日本新聞協会に加盟する新聞・通信社の合計で、2016年の42,254人から2026年の31,312人に減っています。

集計の対象は2016年が97社、2026年が89社で、社数の違いも数字に含まれます。

人が減る一方で、編集局の仕事は紙面だけでは終わりません。

速報をデジタル版に出し、続報で書き足し、翌朝の紙面に載せる流れでは、同じ取材から何本もの原稿を作ります。

文字起こしや校閲のような、手順が決まっていて量の多い作業をAIに渡せれば、記者は取材に、デスクは判断に時間を使えます。

一方で、AIの誤りが記事に入れば、訂正を出すだけでなく、読者の信頼にも関わります。

AIを使うかどうかではなく、どの作業に使い、誰がどう確かめるかを先に決めることが、新聞社のAI活用の出発点になります。

参考:新聞の発行部数と世帯数の推移|日本新聞協会

参考:新聞・通信社従業員総数|日本新聞協会

編集局でAIを使える5つの場面

編集局でAIを使える場面は、記事を書く作業そのものより、取材の前後と公開の前に集中しています。

手順が決まっていて量が多く、人が元の録音や資料と照らし合わせられる作業ほど、AIを使っても記事の信頼を保ちやすくなります。

使える場面は、次の5つです。

  • 取材音声の文字起こしで、記者が録音を聞き直す時間を減らす
  • 原稿の校閲で、表記の揺れや誤字の候補をAIに挙げさせる
  • 外部情報の収集と要約で、発表資料の要点を記者に早く届ける
  • AIで作る定型記事の下書きで、決算や選挙などの型が決まった原稿を速く用意する
  • 過去記事を使った読者への回答で、自社の記事資産を新しい読まれ方につなげる

どの場面でも、AIの出力をそのまま紙面やデジタル版に出すことはしません。

次の表は、5つの場面ごとに、作業が減る人と、人が確かめる点を示したものです。

場面 作業が減る人 人が確かめる点
取材音声の文字起こし 記者 発言者、数字、固有名詞
原稿の校閲 校閲担当、デスク 指摘の採否、事実関係
外部情報の収集と要約 記者、デスク 要約と原文の一致
定型記事の下書き 記者 元データとの一致、表現
過去記事を使った回答 デジタル担当 回答の根拠となる記事

取材音声の文字起こし

取材音声の文字起こしは、AIを最初に試しやすい作業です。

記者は、記者会見やインタビューの録音を聞き直し、発言を書き起こす作業に多くの時間を使います。

AIで録音を文字にすれば、記者は全文を一から打つ必要がなくなり、確かめたい発言だけを聞き直せます。

ただし、AIは人名や地名、専門用語、数字を聞き誤ることがあります。

記事に引用する発言は、必ず録音と照らし合わせてから使います。

取材相手の名前や連絡先が入った録音を、学習に使われる外部のサービスに入れないことも決めておきます。

文字起こしの結果は、録音のファイル名と日時をつけて保存し、記事のどの発言がどの録音から来たかを後から追えるようにします。

記者が聞き直す時間がどれだけ減ったかを、試す前と後で比べておくと、ほかの作業にAIを広げるときの判断に使えます。

原稿の校閲

原稿の校閲では、AIに誤字や表記の揺れ、社内の用字用語との違いの候補を挙げさせ、校閲担当が採否を決めます。

新聞社には、漢字の使い分けや数字の書き方などを決めた用字用語の基準があります。

基準をAIに読ませておくと、原稿の中で基準と違う箇所を一覧にできます。

AIが挙げた候補をそのまま直すのではなく、校閲担当が1つずつ採否を決めます。

事実関係の確認、たとえば人名の漢字や肩書、日付と曜日の一致は、AIの指摘があっても人が資料で確かめます。

AIが見落とした誤りと、AIが誤って指摘した箇所の両方を記録しておくと、AIに読ませる用字用語の基準を直すときに使えます。

外部情報の収集と要約

外部情報の収集と要約では、官公庁や企業の発表資料をAIで集めて要点を作り、担当の記者に届けます。

発表資料は量が多く、記者がすべてを読んでから取材の要否を決めるのは難しい作業です。

AIで資料の要点を数行にまとめて届ければ、記者はどの原文から読むかの順番を早く付けられます。

要約は原文の一部を落とすことがあるため、記事に使う数字や発言は、必ず原文の資料で確かめます。

要約を読んで取材を決め、記事は原文と取材に基づいて書く、という順番を守ります。

届ける先の記者は、担当する分野や地域で分けておきます。

要約の長さと、必ず入れる項目を決めておくと、記者が読み比べやすくなります。

必ず入れる項目は、発表元、日付、数字、問い合わせ先の4つが目安です。

AIで作る定型記事の下書き

定型記事の下書きとは、決算の発表や選挙の開票結果、スポーツの試合結果のように、型が決まった原稿の初稿をAIに作らせることです。

決まった書式と、照らし合わせられる元データがそろう記事は、初稿づくりをAIに任せやすい記事です。

記者は、AIの下書きと元のデータを照らし合わせ、数字や固有名詞の誤りを直します。

下書きの段階で、前年との比較や地域にとっての意味など、記者が足す内容を決めておきます。

下書きを使う記事の種類と、記者が必ず手を入れる箇所は、社内ルールで先に決めます。

たとえば、決算記事なら売上高と利益の数字、前年との比較、会社のコメントの3か所を、記者が元の資料で必ず確かめる箇所にします。

北海道新聞社のように、AIによる記事の執筆そのものを指針で禁じている社もあります。

下書きをどこまで使うかは、各社の方針で決めます。

参考:北海道新聞社開発の編集支援AI、東奥日報社が導入 2例目|北海道新聞デジタル

過去記事を使った読者への回答

過去記事を使った読者への回答とは、自社が配信した記事だけを根拠にして、読者の質問にAIが答える使い方です。

新聞社には、長年配信してきた記事という、自社だけが持つ資産があります。

AIの回答に、根拠となった記事を示す形にすれば、読者は元の記事を読んで内容を確かめられます。

自社の記事に答えがない質問には、AIに答えさせない設定にします。

記事の配信日も回答に示せば、読者は情報がいつの時点のものかを知ることができます。

回答の誤りに読者が気づいたときの連絡先と、直す担当も決めておきます。

記事が訂正された場合は、訂正後の記事を回答の根拠に使うよう、記事データの更新の手順もあわせて決めます。

編集局でAIを使える5つの場面

新聞社のAI活用事例

新聞社のAI活用事例には、社内の編集作業を支える使い方と、記事の資産を新しい商品にする使い方の2つがあります。

全国紙だけでなく地方紙も、自社で作った仕組みを他社に提供したり、研究所と組んで事業にしたりと、取り組みの形は社ごとに違います。

取り上げる事例は、次の4つです。

  • 朝日新聞の社内チャットと編集アシスタントで、社内利用から編集作業まで進めた例
  • 北海道新聞のD-aiで、自社で作った編集支援ツールを他社にも提供した例
  • 日本経済新聞の質問サービスで、記事をもとに読者の質問に答える例
  • 信濃毎日新聞の生成AIサービスで、過去記事を企業や自治体向けに使う例
新聞社 主な用途 時点
朝日新聞社 社内専用の生成AI、編集アシスタント 2023年6月から社内利用
北海道新聞社 校閲、文字起こし、要約、定型記事の下書き 2025年6月から社内運用
日本経済新聞社 記事をもとに読者の質問に答える 2025年の新聞技術賞
信濃毎日新聞社 記事データを使った企業・自治体向けの生成AI 2026年1月に発表

朝日新聞の社内チャットと編集アシスタント

朝日新聞社は、社内専用の生成AIを用意したうえで、編集作業の一部にもAIを取り入れています。

同社の発表によると、2023年6月に社内専用の生成AI「Asahi AI」をリリースしました。

2025年7月には、Geminiを加えた「AsahiAI Chat」に更新しています。

編集部門では、AIで短時間にプログラムを作って大量のデータを分析したり、アンケートの自由記述を分類したりした例があります。

2025年からは、編集アシスタントのStoryHubを、ウェブサイトの一部の記事や朝日新聞デジタルの「土曜ビューアー号外」の編集に使っています。

生成された文章は、編集者や記者が確認し、必要に応じて直しています。

同社は2025年4月に社内に「AI委員会」を作り、2025年9月29日に「AIに関する考え方」を公表しました。

参考:朝日新聞社が「AIに関する考え方」を公表|PR TIMES

北海道新聞のD-ai

北海道新聞社は、編集業務を支えるAI「D-ai」を自社で開発し、2025年6月から編集局で運用しています。

北海道新聞の報道によると、D-aiの主な機能は次の3つです。

  • 記事の校閲と、音声の文字起こし
  • 外部のウェブサイトから届く情報の自動収集と要約、現場の記者への共有
  • 定型記事の下書きの作成

入力した情報は、外部のAIの学習に使われない環境で扱われます。

D-aiは他社にも提供されており、宮崎日日新聞社が初めて導入し、2026年9月には東奥日報社が2社目として導入しました。

北海道新聞社は2025年1月に「生成AIの利用に関する指針」を作り、AIは補助の道具で、すべての判断と責任は編集者が担うとしています。

指針では、AIによる記事の執筆と、外部のAIへの機密情報の入力を禁止しています。

参考:北海道新聞社開発の編集支援AI 宮崎日日新聞社が初導入|北海道新聞デジタル

参考:北海道新聞社開発の編集支援AI、東奥日報社が導入 2例目|北海道新聞デジタル

日本経済新聞の質問サービス

日本経済新聞社は、日経電子版の記事をもとに、ニュースに関する読者の質問に生成AIが答えるサービスを提供しています。

日本新聞協会は2025年9月3日に、日経電子版の質問サービスを2025年の新聞技術賞に選びました。

選ばれた理由は、記事という新聞の中心の資産に新しい価値を加え、技術でメディアの魅力を高めた点です。

電子版の記事をもとに答える形は、過去記事を使った読者への回答の具体例にあたります。

参考:Japan Newspaper Publishers and Editors Association Honors Nikkei’s “Ask! NIKKEI” with the Newspaper Technology Award|Nikkei Inc.

信濃毎日新聞の生成AIサービス

信濃毎日新聞社は、自社の記事データを使った生成AIのサービスを、長野県内の企業や自治体向けに始めると発表しました。

共同通信が2026年1月20日に配信した記事によると、発表の時点で、サービスは3月にも始める計画でした。

サービスは現在、「信毎SHINC」の名前で、企業、自治体、教育機関向けに提供されています。

AI関連企業のエクサウィザーズの生成AIを基盤にし、2010年以降の過去記事と最新記事のデータを組み込んでいます。

信濃毎日新聞社は同じ日に、新潟日報社と、新潟日報社の子会社である新潟日報生成AI研究所と連携協定を結びました。

地方紙では、岩手日報社、茨城新聞社、下野新聞社、北日本新聞社、徳島新聞社も、同じ研究所と連携して生成AIの事業に入ると発表しています。

社内の作業を減らす使い方とは別に、記事を地域の企業や自治体向けの商品にする使い方です。

参考:信濃毎日新聞社が生成AI参入 企業や自治体向けに記事活用(共同通信)|熊本日日新聞社

参考:生成AI 信毎SHINC(シンマイシンク)|信濃毎日新聞の記事データを活用した生成AIサービス

記事の信頼を損なう3つのリスク

新聞社がAIを使うときのリスクは、誤った記事を出すこと、取材で得た情報が外に漏れること、報道コンテンツの権利が守られないことの3つです。

それぞれの内容は、次のとおりです。

  • 事実と異なる出力が、確認を通らずに記事に入る
  • 取材情報の外部への流出が、取材源の信頼を損なう
  • 報道コンテンツの権利が、AIのサービスに無断で使われる

1つ目と2つ目は自社の使い方で防げるリスクです。

3つ目は、新聞業界が国やAIの事業者に対策を求めているリスクです。

事実と異なる出力

生成AIは、事実と異なる内容をもっともらしい文章で出力することがあります。

日本新聞協会は2023年10月の「生成AIに関する基本的な考え方」で、偽情報や誤情報を生む「ハルシネーション」を、社会全体にとって大きな脅威だとしています。

新聞社にとって、誤った数字や人名が記事に入れば、訂正を出すだけでなく、読者の信頼を失います。

とくに、文字起こしの聞き誤り、要約での抜け、下書きの数字の誤りは、文章が自然なだけに見落としやすい誤りです。

AIの出力は、元の録音や資料、データと照らし合わせるまで、確定した情報として扱いません。

誤りが記事に出てしまった場合のために、AIを使った記事の訂正をどう出し、どの段階の確認で漏れたかを記録する手順も決めておきます。

参考:生成AIに関する基本的な考え方|日本新聞協会

取材情報の外部への流出

取材メモや録音には、取材源の名前、未発表の情報、個人の連絡先が含まれます。

入力した内容を学習に使う外部のAIサービスに取材情報を入れると、取材源を守れなくなるおそれがあります。

個人情報保護委員会は2023年6月の注意喚起で、事業者が個人情報を含む指示文をAIに入力する場合は、利用目的の範囲内かを確かめるよう求めています。

あわせて、本人の同意なく個人データを入力する場合は、サービスの提供者が個人データを機械学習に使わないことを確かめるよう求めています。

個人情報保護委員会の注意喚起は個人情報についてのものですが、取材源の保護は、匿名を条件にした取材の経緯や報道前の企画にも及びます。

取材情報を扱う作業には、入力した内容が学習に使われない契約や設定のAIだけを使います。

参考:生成AIサービスの利用に関する注意喚起等|個人情報保護委員会

報道コンテンツの権利

報道コンテンツの権利のリスクとは、新聞社の記事が、許諾や支払いなしにAIの学習や回答に使われることです。

日本新聞協会は2026年4月20日に、AI検索のサービスについて声明を出しました。

声明では、AI検索で報道コンテンツを使う場合も、権利者の許諾を取ることを原則にするよう求めています。

あわせて、権利者がAI検索での利用を自分の意思で断れる仕組みを、日本で早く導入するよう求めています。

文化庁は、2024年3月に「AIと著作権に関する考え方について」を取りまとめ、同年7月にはチェックリストとガイダンスを公表しました。

自社がAIを使う側に立つときも、他社の記事や写真をAIに読ませて記事を作る使い方は、権利の確認を済ませてから行います。

関連記事:AI生成物の著作権はどうなる?利用時のリスクと対策を解説

参考:AI検索サービスに関する声明|日本新聞協会

参考:AIと著作権について|文化庁

AIエージェント導入支援

生成AIの利用で決める4つの社内ルール

生成AIの社内ルールとは、編集局の誰が、どの情報を、どのAIに入れ、出力をどう確かめて記事にするかを決めた文書です。

社内ルールを先に文書にしておけば、AIを使う記者もデスクも、同じ基準で入力と確認を進められます。

朝日新聞社の「AIに関する考え方」や北海道新聞社の指針に共通する項目から、次の4つを決めます。

  • 最終判断の責任者を、記事ごとに決める
  • AIに入力してよい情報を、取材情報の種類ごとに決める
  • 出力の事実確認の手順を、場面ごとに決める
  • 読者へのAI利用の明示を、どの記事で行うかを決める
ルール 防ぐリスク 決める内容
最終判断の責任者 事実と異なる出力 出稿を決める人
AIに入力してよい情報 取材情報の外部への流出 入力できる情報と使えるAI
出力の事実確認の手順 事実と異なる出力 照らし合わせる資料と担当
読者へのAI利用の明示 読者の信頼の低下 表示する記事と文言

最終判断の責任者

最終判断の責任者とは、AIを使った原稿を記事として出すかどうかを決める人のことです。

朝日新聞社の「AIに関する考え方」は、AIを人間を補助する役割と位置づけ、最終的な判断と責任は人間が担うとしています。

北海道新聞社の指針も、すべての判断と責任は編集者が担うとしています。

社内ルールでは、AIを使った原稿でも、出稿を決めるのは通常の原稿と同じデスクであることを書きます。

「AIが作ったから」という理由で、確認の段階を省かないことも明記します。

反対に、AIを使ったことを理由に、記者だけに責任を負わせる書き方もしません。

AIを使う判断をした記者、出力を確かめた記者、出稿を決めたデスクのそれぞれの役割を、社内ルールに分けて書きます。

参考:朝日新聞社が「AIに関する考え方」を公表|PR TIMES

参考:北海道新聞社開発の編集支援AI、東奥日報社が導入 2例目|北海道新聞デジタル

AIに入力してよい情報

AIに入力してよい情報は、情報の種類と、使うAIの種類の組み合わせで決めます。

たとえば、公開済みの記事や発表資料は、社内で認めたAIなら入力してよい情報です。

一方で、取材源の名前や未発表の情報、個人の連絡先は、学習に使われない社内専用の環境だけで扱います。

情報の種類 社内専用のAI 外部の一般向けAI
公開済みの記事、発表資料 入力してよい 社内で認めたサービスに限る
取材メモ、録音 入力してよい 入力しない
取材源の名前、連絡先 必要な範囲だけ 入力しない
未発表の情報 必要な範囲だけ 入力しない

北海道新聞社は、外部のAIへの機密情報の入力を指針で禁止しています。

社内専用の環境でも、利用できる人の範囲、入力した内容の保存期間と消し方、学習に使わない設定、提供元との契約の内容を確かめてから使います。

社内専用の環境を用意できない段階では、取材情報をAIに入れる作業は始めません。

参考:北海道新聞社開発の編集支援AI、東奥日報社が導入 2例目|北海道新聞デジタル

出力の事実確認の手順

出力の事実確認の手順は、5つの場面ごとに、何と照らし合わせるかを決めます。

文字起こしは録音と、要約は原文の資料と、定型記事の下書きは元のデータと照らし合わせます。

照らし合わせる担当は、少なくともAIを使った記者と、出稿を決めるデスクの役割を分けて決めます。

朝日新聞社の考え方でも、AIの出力の事実関係を確認し、同社の記者行動基準を守ることを求めています。

確認した人の名前と日時を、原稿の管理システムに残す運用にすると、誤りが見つかったときにどの段階で漏れたかを追えます。

参考:朝日新聞社が「AIに関する考え方」を公表|PR TIMES

読者へのAI利用の明示

読者へのAI利用の明示とは、AIを使って作った記事やサービスに、AIを使ったことを示すことです。

日本新聞協会は、AIで作られたものにはAIが作ったと示す義務を設ける必要があると考えています。

朝日新聞社の考え方にも、AIの利用の過程を必要かつ可能な範囲で説明し、透明性を確保する項目があります。

社内ルールでは、AIが下書きを作った定型記事や、AIが答える読者向けのサービスに、表示する文言と場所を決めます。

文字起こしや校閲のように記者の作業を支えるだけの使い方まで表示するかは、各社の方針で決めます。

参考:生成AIに関する基本的な考え方|日本新聞協会

参考:朝日新聞社が「AIに関する考え方」を公表|PR TIMES

生成AIの利用で決める4つの社内ルール

AI導入を段階的に進める4つのステップ

AI導入は、記事の公開に関わらない作業から試し、デスクの確認の流れに組み込んでから、ほかの部署に広げる順で進めます。

順番を守れば、AIの誤りが記事に入る前に、誤りの出方と確認にかかる時間を社内で数えられます。

進め方は、次の4つのステップです。

  • 編集局の作業時間の書き出しで、AIを試す作業を選ぶ
  • 公開前の原稿に触れない作業での試行で、誤りの出方を確かめる
  • デスクの確認手順への組み込みで、AIの出力を通常の確認の流れに入れる
  • ほかの部署への展開で、決めたルールを社内全体で使う

編集局の作業時間の書き出し

最初のステップは、編集局の作業を書き出し、どの作業に何時間かかっているかを数えることです。

記者、デスク、校閲担当、デジタル担当のそれぞれに、1週間の作業を書き出してもらいます。

書き出した作業のうち、手順が決まっていて、量が多く、誤りを人が見つけやすい作業から、AIを試す作業を選びます。

作業 手順が決まっている 量が多い 誤りを見つけやすい
取材音声の文字起こし はい はい はい(録音と照合)
発表資料の要約 はい はい はい(原文と照合)
原稿の校閲の候補出し はい はい はい(校閲担当が判断)
解説記事の執筆 いいえ いいえ いいえ

解説記事や調査報道のように、記者の判断が中心の作業は、試す対象に選びません。

書き出しの結果は、作業ごとに、1週間の合計時間と担当者の人数を記録し、AIを試したあとの時間と比べられるようにします。

公開前の原稿に触れない作業での試行

2つ目のステップは、公開する原稿に直接触れない作業で、AIを1か月ほど試すことです。

文字起こしや発表資料の要約は、AIの出力が直接紙面に載らないため、誤りがあっても記者の確認で止められます。

録音を使う文字起こしは、入力した内容が学習に使われない環境を用意してから試します。

試行では、AIを使った作業時間と、AIの出力に見つかった誤りの件数と種類を記録します。

記録する項目 記録の例
作業時間 1本の録音の文字起こしにかかった時間
誤りの件数 1本の録音で見つかった誤りの数
誤りの種類 人名、地名、数字、発言者の取り違え
人が直した時間 誤りを見つけて直すのにかかった時間

誤りの種類が分かれば、どの確認を人が必ず行うかを社内ルールに書けます。

試行を始める前に、確認の時間を含めても作業時間が減った作業だけを続け、人名や数字の誤りが続く作業はやめる、という続けるかどうかの基準を決めておきます。

公開前の原稿に触れない作業から始めれば、誤りが記事に入らない形で、AIの得意なことと苦手なことを記者自身が確かめられます。

AIで記事の信頼が落ちないかと心配する記者にとっても、自分の目で誤りの出方を見ることが、使うかどうかを決める根拠になります。

デスクの確認手順への組み込み

3つ目のステップは、AIの出力を、デスクがふだん行う原稿の確認の流れに組み込むことです。

AIを使った原稿だけ別の流れで確認すると、確認の担当や段階が分からなくなります。

原稿の管理システムに、AIを使ったかどうかと、使った場面を記録する欄を設けます。

デスクは記録を見て、文字起こしなら録音、下書きなら元データとの照合が済んでいるかを確かめてから出稿します。

定型記事の下書きは、確認の流れが定着してから試します。

確認の流れに組み込んだあとも、AIの出力に誤りが見つかったら、デスクが記録し、週ごとに件数と種類を集計します。

同じ種類の誤りが続く場合は、AIへの指示文や読ませる資料を直すか、誤りが続く作業でのAIの利用をやめるかを決めます。

ほかの部署への展開

4つ目のステップは、編集局で決めたルールと手順を、デジタル部門や管理部門などほかの部署でも使えるようにすることです。

デジタル部門では、過去記事を使った読者への回答のように、記事の資産を使う新しいサービスに広げられます。

総務や経理などの管理部門では、社内文書の要約や問い合わせへの回答文の下書きにも、同じ入力のルールと確認の手順を使えます。

部署ごとに別のルールを作ると、同じ社内で入力してよい情報の線が部署によって違ってしまいます。

入力してよい情報と確認の手順は、全社共通の最低限の基準を1つ作り、部署ごとに扱う情報に合わせた決まりを足します。

広げる前に、試行で記録した作業時間と誤りの件数をもとに、AIを使う作業と使わない作業を見直します。

3か月ごとに、AIを使った作業の時間と誤りの件数を部署ごとに集計し、社内ルールを書き直します。

関連記事:AIエージェントの開発方法!必要な技術と費用・外注時の注意点

AI導入を段階的に進める4つのステップ

記者とデスクに必要なAI研修

AI研修は、職種ごとに、AIで何をしてよく、何を人が確かめるかを、実際の作業で身につける内容にします。

記者、デスクと校閲担当、経営層では、AIに触れる場面も、誤りを止める役割も違うため、研修の中身を分けます。

職種ごとの研修は、次の3つです。

  • 記者向けの研修で、文字起こしと要約の使い方と照合の手順を身につける
  • デスクと校閲担当向けの研修で、AIを使った原稿の確認の仕方を身につける
  • 経営層向けの研修で、AIへの投資と社内ルールの判断に必要なことを身につける

朝日新聞社の考え方にも、AI時代のメディア企業に必要な知識と技能を持つ人材を育てる項目があります。

北海道新聞社も、指針とあわせて社内のリテラシー教育を進めています。

関連記事:課題別のおすすめ生成AI研修10選|選び方から助成金・定着設計まで解説

参考:朝日新聞社が「AIに関する考え方」を公表|PR TIMES

参考:北海道新聞社開発の編集支援AI、東奥日報社が導入 2例目|北海道新聞デジタル

記者向けの研修

記者向けの研修では、自分の取材音声や発表資料を使って、AIの出力と原文を照らし合わせる練習をします。

一般的なAIの使い方を学ぶより、自分の担当分野の録音や資料で、AIがどこを誤るかを知るほうが記事の質に役立ちます。

たとえば、地名や人名の聞き誤り、数字の桁の誤り、要約で落ちた条件を、自分で見つける練習をします。

あわせて、社内ルールで決めた、入力してよい情報と入力しない情報の区別を、具体的な取材の場面で確かめます。

研修の時間は、1回で終えるより、試行の期間中に短い回を何度か設け、実際に見つかった誤りを題材にするほうが記者の作業に結びつきます。

デスクと校閲担当向けの研修

デスクと校閲担当向けの研修では、AIを使った原稿のどこを重点的に確かめるかを学びます。

AIの出力は文章が自然なため、誤りがあっても読み流しやすいという特徴があります。

研修では、AIが作った下書きに誤りを入れた練習用の原稿を使い、見つける手順を身につけます。

校閲担当は、AIが挙げた校閲の候補を採るか採らないかの基準を、用字用語の基準とあわせて決めます。

デスクには、AIを使った場面の記録を見て、照合が済んでいない原稿を出稿前に止める練習も入れます。

経営層向けの研修

経営層向けの研修では、AIで減らせる作業時間と、社内ルールと確認の体制にかかる手間の両方を理解します。

AIの利用料だけでなく、社内専用の環境を用意する費用や、確認の担当者の時間も、投資の判断に含めます。

記事の資産を使った新しいサービスを考える場合は、権利の扱いと、誤った回答が出たときの責任の所在も判断の対象です。

経営層が社内ルールの内容を理解していれば、現場が誤りの記録を正直に報告でき、ルールの見直しが続きます。

経営層には、試行の記録を3か月ごとに報告し、AIを広げる作業と、やめる作業を決めてもらいます。

朝日新聞社が2025年4月に社内に「AI委員会」を作ったように、AIの使い方を全社で決める場を設けると、部署ごとにルールがばらばらになりません。

参考:朝日新聞社が「AIに関する考え方」を公表|PR TIMES

自社で進める範囲と外部の支援を使う場面

作業時間の書き出し、社内ルールの文書化、公開済みの発表資料を使った要約の試行は、編集局の中で進められます。

進め方 主な作業
編集局で進める 作業時間の書き出し、社内ルールの文書化、公開資料の要約の試行
外部の支援を使う 取材情報を守るAIの環境づくり、自社用のAIの開発、研修づくり

外部の専門家の力が必要になるのは、次のような場面です。

  • 取材情報を学習に使われない環境で扱うための、AIの環境とデータの流れを設計する場面
  • 用字用語の基準や過去記事を読み込ませ、校閲や回答に使うAIを自社用に作る場面
  • 原稿の管理システムとAIをつなぎ、使った場面と確認の記録を自動で残す場面
  • 記者やデスクが自分の作業でAIを使えるよう、職種ごとの研修を作る場面

社内ルールと試行の結果がそろった段階で、どの作業を仕組みとして作るかを決めます。

試行で選んだ作業をAIエージェントとして自社の環境に作る段階では、malnaのAIエージェント構築支援で、業務フローの棚卸しからご相談いただけます。

AIを使える人材が社内にいない場合

社内ルールに書く項目はわかった。

でも、ルールを編集局の締め切りの流れに組み込んで回す人が社内にいない。

ルールを文書にしたあとも、試行で見つかった誤りを集めて、AIへの指示と確認の手順を直し続ける担当者が欠かせません。

malnaでは、AI活用の実務経験を持つ人材をご紹介するAIタレント名鑑を運営しています。

採用ではなく業務委託として、週1日から相談いただけます。

AIエージェント導入支援
無料相談はこちら
                   

執筆者情報

malnaブログ編集部

writer malnaブログ編集部 webマーケター / データアナリスト
Facebook・InstagramをはじめとするSNS広告からSEO対策など、マーケティングに関する様々な情報を発信しています。
記事一覧はこちら

関連記事タグをクリックでカテゴリページを開きます

AIエージェント導入支援について

自社で50以上のAIエージェントを動かすmalnaが、貴社の業務に合わせてAIエージェントを導入します。
業務の棚卸し・診断は無料です。

AIエージェント導入を相談する 詳しく見る