2026.10.12
AIエージェント導入の進め方|稟議から試行の判定まで社内で決める手順
AIエージェントの導入を任されたとき、最初につかえるのは製品選びより、社内の誰に何を決めてもらうかという点です。業務部門は効果を、情報システム部門は接続と権限を、法務やセキュリティの担当はデータの扱いを気にしており、どの問いに答えが欠けても稟議は通りません。

目次
AIエージェントは社内のシステムやファイルにつながり、手順を続けて実行します。チャット型の生成AIを配ったときと比べて、部署をまたいで決めることが増えるのはそのためです。試行で手応えがあっても、権限や運用の担当が決まっていなければ、本番に移す判断が下せないまま時間だけが過ぎていきます。
ここでは、AIエージェントを導入する企業の側から見た社内の進め方を、主管と関係部署の役割分担、稟議に出す材料、試行の評価と判定、権限と利用ルールの固め方、部署への展開と運用担当の置き方の順に解説します。業務部門、情報システム部門、DX推進の部署で導入の取りまとめを任された方に向けた内容です。内容は2026年10月時点の情報にもとづいています。
1件目に任せる業務をまだ選べていない場合は、malnaのAIエージェント構築支援に、業務フローの棚卸しを最初の作業として頼めます。
AIエージェント導入とは、業務の手順と責任の持ち方を社内で組み替えること
AIエージェント導入とは、目標に向けて自ら手順を選んで作業を進めるAIを社内の業務に組み込み、誰が結果を確かめ、誰が責任を持つかまで決めたうえで使い続けることです。製品を契約した日ではなく、社内の手順と決まりが実際に変わった日が導入の区切りになります。
AIエージェントの定義とチャットとの違い
総務省と経済産業省の「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」は、AIエージェントを、特定の目標を達成するために環境を感知し自律的に行動するAIシステムと定義しています。この自律には、高度な自律状態に限らず、ある程度の自律性を持つものも含まれます。
チャット型の生成AIは、人が尋ねるたびに答えを返す道具です。AIエージェントは社内のシステムやデータにつながって、いくつもの操作を続けて行います。導入にあたっては、任せる仕事に加えて、触れてよい範囲、結果を確かめる人、止める判断を下す人を社内で決めておかなければなりません。
作る手順と社内の進め方は別の問い
AIエージェントの導入には、エージェントを作る技術の手順と、導入する企業が社内の合意を取り付けて運用に載せる進め方という、2つの面があります。前者は目的の設定や手順の分解、モデルとツールの組み立て、評価といった作る側の工程です。後者は主管、稟議、判定、権限の規程、運用の担当といった会社の側の決めごとにあたります。
| 観点 | 作る側の技術手順 | 導入する企業側の進め方 |
|---|---|---|
| 主な担い手 | 構築の担当者、開発者 | 主管の部署、業務部門、情報システム部門、法務、経営 |
| 決めること | 指示の書き方、使うモデルとツール、評価の方法 | 誰が承認し、誰が運用し、何をもって続けると判定するか |
| 成果物 | 動くエージェント、評価の記録 | 稟議書、評価表、権限の一覧、利用ルール、引き継ぎ資料 |
| 止まりやすい場面 | 精度が上がらない、ツールがつながらない | 稟議が通らない、本番に移す判断ができない、担当が決まらない |
作る側の手順は、AIエージェントの基礎を扱う記事で5つのステップとして整理しています。ここから先は、その手前と後ろにある社内の進め方に絞ります。
関連記事:【最新版】AIエージェントとは?種類・活用事例まで徹底解説
生成AIの利用は広がったが、組織としての取り組みには差がある
総務省の令和8年版情報通信白書によると、2025年度の企業向け調査で、自社の何らかの業務で生成AIを利用していると答えた日本企業は86.4%でした。2024年度の企業向け調査から大きく上がっています。
ところが、生成AIによる業務変革の組織的な取り組みについて尋ねた設問では、日本で組織的な取り組みはないと答えた割合が27.0%と約3割にのぼり、米国、ドイツ、中国を上回りました。中小企業では、この割合が特に高い傾向も見られます。個人が生成AIを使う段階から、業務の手順をAI前提で組み替える段階に進むには、誰が主導し誰が承認するかを社内で決める作業が避けて通れません。
参考:令和8年版情報通信白書 第Ⅰ部第2章第1節 企業におけるAI利用の現状(総務省)
最初に決める主管と関係部署の役割
AIエージェント導入で最初に決めるのは、全体を取りまとめる主管の部署と、関係する部署それぞれが引き受ける範囲です。主管が決まらないまま進めると、稟議の材料づくりも、試行の判定も、本番後の運用も、誰の仕事なのかがはっきりしません。
主管をどこに置くか
主管の置き場所は、DX推進の部署、情報システム部門、対象業務を持つ業務部門の3つが候補になります。どこに置いても進められますが、置いた場所によって得意なことと手薄になりやすいことが変わります。
| 主管の置き場所 | 進めやすいこと | 手薄になりやすいこと |
|---|---|---|
| DX推進の部署 | 部署をまたぐ調整、2件目以降への展開 | 対象業務の細かな手順や例外の把握 |
| 情報システム部門 | 接続、権限、操作記録の設計 | 業務部門が感じる効果の見極め |
| 業務部門 | 手順書と判断基準づくり、現場への定着 | 他部署との調整、全社の決まりとの整合 |
1件目に限っていえば、対象業務を持つ業務部門に主管を置き、DX推進の部署か情報システム部門が補佐に回る形が進めやすくなります。業務の中身を知る人が判定に加わらないと、試行の結果を正しく評価できないからです。
業務部門が引き受けること
業務部門の役目は、対象業務の手順書と判断基準をつくり、試行で出力を確かめ、本番での使い方を現場に根づかせることです。どんな出力なら合格で、どんな出力なら直しが要るのかを言葉にできるのは、その業務を日々回している人に限られます。
試行の利用者も業務部門から出します。使っていてつまずいた点や、出力が役に立たなかった場面は、その場で書き残してもらいます。この記録が、試行の判定にも本番の手順書にも使われます。
情報システム部門が引き受けること
情報システム部門は、AIエージェントをつなぐシステムとデータの範囲、渡す権限、操作の記録の残し方を設計し、試行と本番の環境を用意します。AIエージェントは社内のシステムに触れて動くため、読める範囲と書き込める範囲を決めずに本番へ出すわけにはいきません。
既存の業務システムに備わったAIエージェントの機能を使う場合も同じです。管理者が利用者ごとに機能を制限できるか、操作の記録を後から確かめられるかは、契約の前に情報システム部門が確かめておきます。
法務・セキュリティ・経営が引き受けること
法務とセキュリティの担当が見るのは、入力してよい情報の区分、利用規約、個人情報や機密情報の扱いです。経営は、どの業務領域から手を付けるかの優先順位と、投資の判断を受け持ちます。
白書は、AI活用を前提とした業務の変革では、経営層の判断で優先的に取り組む業務領域を検討し、その領域の特性や人間が負うべき責任の範囲を見極めることが重要だとしています。社内システムや社内データとAIの連携を進めるにあたり、投資判断を含めた組織的な取り組みが求められるという指摘もあります。
役割を1枚の表にして合意しておく
関係部署の役割は、試行に入る前に1枚の表にまとめ、各部署の責任者に目を通してもらいます。担当者の名前まで書き込んでおけば、試行中に判断が要る場面で、誰に聞けばよいかを探さずに済みます。
| 決めること | 主に持つ部署 | 意見を聞く部署 |
|---|---|---|
| 対象業務と判断基準 | 業務部門 | 主管、DX推進 |
| 接続するシステムと権限 | 情報システム部門 | 業務部門、セキュリティ |
| 入力してよい情報の区分 | 法務、セキュリティ | 業務部門、情報システム部門 |
| 試行の判定 | 主管 | 業務部門、情報システム部門 |
| 本番の投資判断 | 経営 | 主管、情報システム部門 |
| 本番後の運用と改善 | 運用担当 | 業務部門、情報システム部門 |
この表は、本番後に担当が替わったときの引き継ぎ資料としても使えます。

稟議と投資判断に出す材料をそろえる
AIエージェント導入の稟議でそろえる材料は、その業務を選んだ理由、見込む効果、費用、想定外の動きをしたときの止め方の4つです。試行の稟議と本番の稟議を分けておくと、最初の承認で求められる材料を小さくできます。
対象業務を1つに絞った理由を書く
稟議書の冒頭には、その業務を1件目に選んだ理由を書きます。件数が多く、手順と判断基準を言葉にでき、誤りがあっても社外に出る前に止められる業務なら、効果の見込みと失敗したときの影響をどちらも説明しやすくなります。
社外への送信、支払い、記録の確定のように、実行した時点で取り消しがきかない操作を含む業務は1件目から外した、と書き添えておくと、承認する側の不安を先回りして減らせます。業務の条件によってAIエージェントの損得がどう入れ替わるかは、メリットとデメリットを扱う記事にまとめています。
関連記事:AIエージェントのメリットとデメリット|業務の条件で損得を見極める
効果の見積もりは件数と時間と確認の手間で組む
効果の見積もりは、対象業務の月の件数、1件あたりの作業時間、AIエージェントの出力を人が確かめる時間の3つを掛け合わせて組みます。減る時間だけを書くと確認の手間が抜け落ち、見積もりが実態より大きくなります。
試行の稟議では、数字は仮置きで足ります。仮置きの前提を稟議書に明記し、試行の実測値に置き換えてから本番の稟議に出すと決めておけば、承認する側も試行で何を確かめるのかがわかります。
費用は初期と運用中に続くものを分けて書く
費用は、導入時にかかるものと、運用中に毎月続くものに分けて書きます。運用中の費用にはAIモデルの利用料、連携するツールのライセンス、指示や手順を直し続ける人の工数が入り、件数に応じて増える部分とそうでない部分が混ざっています。
承認する側が気にするのは、件数が増えたときに費用がどこまで膨らむかです。月の上限額と、上限に近づいたときに誰が判断するかを書いておけば、承認の場で答えに詰まりません。課金の単位と試算の手順は、費用を扱う記事で解説しています。
関連記事:AIエージェントの費用|導入方式で変わる課金単位と月額の試算手順
導入方式は社内の体制に合わせて選ぶ
導入の方式は、既存の業務システムに備わった機能を使う、ノーコードの構築ツールで組む、個別に開発する、の3つに分かれます。稟議で問われるのは方式の優劣より、選んだ方式を社内の誰が保守するかです。
既存の機能を使えば接続の準備が少なく、ノーコードの構築ツールなら業務部門と情報システム部門が同じ画面を見ながら調整でき、個別開発なら自社の判断や独自のデータを中心に組めます。方式を分ける大きな条件は、作ったあとに手を入れ続ける担当を社内に置けるかどうかです。自社で開発して社内に提供する場合は、AI事業者ガイドラインでいう利用者の立場に、開発者や提供者の立場が重なることにも気を配ります。方式ごとの比較と開発の工程は、開発を扱う記事で詳しく扱っています。
関連記事:AIエージェント開発の5工程|技術選定・評価・費用と外注時の確認点
リスクと止め方を稟議に書く
稟議には、想定するリスクと、想定と違う動きをしたときに誰がどう止めるかを書きます。止め方の決まっていない計画では、効果の見込みがどれだけ大きくても、承認する側は判断を下せません。
AI事業者ガイドラインは、AIガバナンスの構築を短期的な利益の観点から単なるコストと見るのではなく、持続的な成長に向けた先行投資と捉えることが重要だとしています。あわせて、環境・リスク分析、ゴール設定、システムデザイン、運用、評価のサイクルを継続して回すアジャイル・ガバナンスの考え方を示しています。このサイクルのうち、試行で何を評価し、本番後に誰が見直すかを稟議に書いておくと、承認したあとの流れまで説明がつきます。
試行の稟議と本番の稟議を分ける
稟議は、試行に入るための承認と、本番に移るための承認の2段に分けます。1段目は期間、範囲、上限額を区切った小さな承認にとどめ、2段目で試行の実測値をもとに判断してもらう形です。
| 項目 | 試行の稟議 | 本番の稟議 |
|---|---|---|
| 目的 | 業務に載るかを確かめる | 部署に広げて使い続ける |
| 効果の数字 | 仮置きの前提 | 試行で実測した値 |
| 費用 | 期間と上限額を区切る | 月の運用費と上限額 |
| 権限 | 読み取りと下書きの保存程度 | 権限の一覧と申請の流れ |
| 添える資料 | 役割の表、評価表の案 | 判定の記録、利用ルール、運用担当 |
2段に分けておけば、試行の結果が振るわなかったときも、追加の費用をかけずに見送りを選べます。

試行は評価表と判定会で区切る
試行の目的は、AIエージェントが業務に載るかどうかを判断する材料を集めることにあります。評価表を試行の前に作り、期間の終わりに判定会を開いて結論を出すと決めておけば、試行が延々と続いて本番にも移れない状態に陥らずに済みます。
試行の範囲・期間・参加者を決める
試行の範囲は、1つの業務を1つの部署の少人数で扱う程度にとどめ、期間は数週間から2か月ほどに区切ります。権限は読み取りと下書きの保存程度に絞り、出力は人が確かめてから業務に使います。
参加者の役割は、使う人、出力を確かめる人、記録をまとめる人の3つです。少人数なら兼任でも構いませんが、誰がどの役割かは名前で決めます。Anthropicは、AIエージェントを動かすにあたって、サンドボックス環境での十分な試験と適切なガードレールを勧めています。本番のデータや社外への送信から切り離した環境で試すことは、情報システム部門と事前に取り決めておきましょう。
評価表は試行の前に作る
評価表とは、何を測り、どの水準なら本番に進むかを、試行を始める前に決めておく一覧です。試行が終わってから指標を探すと、都合のよい数字ばかりに目が向きます。
| 指標 | 測り方 | 判定での使い方 |
|---|---|---|
| 1件あたりの作業時間 | 試行前と試行中で同じ種類の作業を記録する | 削減の見込みを本番の稟議に書く |
| 人が直した割合 | 出力のうち修正が要った件数の割合 | 任せる範囲を広げられるかを見る |
| 修正の種類 | 事実の誤り、書式の崩れ、判断の誤りに分けて数える | 指示や手順で直せるかを見る |
| 確認にかかった時間 | 人が出力を確かめるのにかかった時間 | 削減分を打ち消していないかを見る |
| 利用者の声 | 週ごとにつまずいた点を集める | 本番の手順書と研修に反映する |
評価表を役立てるには、試行前の数字を取っておくことが前提です。試行前の作業時間を測っていなければ、試行中の数字を比べる相手がありません。
判定会で結論を出す
判定会とは、試行の終わりに主管が開き、業務部門と情報システム部門が出席して、評価表の数字から次の進め方を決める場です。出席者と開催日を試行の稟議に書いておくと、期間の延長が繰り返されるのを防げます。
選ぶ結論は、本番に進む、指示や手順を直してもう一度試す、範囲を縮めて続ける、見送る、の4つのいずれかです。人が直した割合が決めた水準を下回り、確認の時間を含めても作業時間が減っていれば、本番に進みます。修正の多くが指示の書き方で直せる種類なら、直して再度試します。判断の誤りが多く手順を変えても防げないときは、その業務では見送ります。見送りも、業務の選び方を見直すための立派な結論です。
導入が途中で止まる型と、その兆候が出たときの判断のしかたは、失敗の型を扱う記事で工程ごとに整理しています。
関連記事:AIエージェント導入が失敗する10のパターン|兆候と着手前の防ぎ方
判定の記録を本番の稟議に引き継ぐ
判定会の結論は、評価表の数字、出席者、結論、その理由をまとめて1枚の記録に残します。この記録が、本番の稟議に添える材料の中心になります。
本番の稟議では、効果の見積もりを試行の実測値に置き換え、試行中に出た修正の種類から、本番でも人の確認を残す工程を示します。試行と本番で同じ評価表を使い続けると決めておけば、本番後の効果の測り方も稟議の時点で説明できます。
参考:Building effective agents(Anthropic)

本番の前に権限と利用ルールを固める
本番に移る前に文書にしておくのは、AIエージェントに渡す権限、人が確かめる工程、利用者が守る決まりの3つです。試行で見えた修正の種類をもとに決めれば、現場で守りきれる大きさのルールに収まります。
権限の一覧と申請の流れを作る
AIエージェントに渡す権限は作業に必要な範囲に絞り、一覧にして情報システム部門が管理します。総務省の「AIのセキュリティ確保のための技術的対策に係るガイドライン」は、AIや連携するシステムを操作する仕組みの権限を必要最小限にすることで、攻撃を受けた場合の被害の広がりを抑えられるとしています。
同じガイドラインは、AIが参照するデータとその保存先について、利用者や役割に応じて参照権限を設定することも挙げています。社内では次の項目を一覧にしておくと、権限を足すときにも見直すときにも確かめやすくなります。
- AIエージェントが読み取れるシステムとフォルダ
- AIエージェントが書き込める場所と操作の種類
- AIエージェントを使える利用者と部署
- 権限を足すときの申請先と承認者
一覧は権限を足すたびに更新し、少なくとも四半期に1回は実際の設定と突き合わせます。使い続けるうちに権限は少しずつ広がっていくので、見直しの時期を先に決めておくのが安全です。
参考:AIのセキュリティ確保のための技術的対策に係るガイドライン(総務省)
人が確かめる工程を手順書に書く
試行で人が確かめていた工程は、本番でも残すものと、抜き取りの確認に切り替えるものに分けます。社外に届く工程、金銭が動く工程、記録が確定する工程については、本番でも人の確認を外しません。
決めた確認の位置は、業務の手順書に書き込みます。担当者の頭の中にしかない確認は、担当が替わった時点で消えてしまいます。人の承認なしに任せてよい操作の条件と、承認の境目の引き方は、自律型AIエージェントの要件を扱う記事で解説しています。
関連記事:自律型AIエージェントの要件|任せる4条件とリスク統制の設計手順
利用者が守るルールを書き出す
AI事業者ガイドラインは、AIを事業で使う側の取り組みとして、提供者が定めた利用上の留意点を守り、想定された範囲内で使うこと、想定された仕様どおりに動いているかを確かめることを挙げています。個人情報や機密情報を不適切に入力しないこと、提供者から受け取った文書を保管して活用し、サービス規約を守ることも含まれます。
これを社内の利用ルールに置き換えると、項目は次のようになります。
- AIエージェントを使ってよい業務と、使わない業務
- 入力してよい情報と、入力しない情報の区分
- 出力を使う前に確かめる項目と、確かめた記録の残し方
- 想定と違う動きをしたときの報告先と止め方
ルールは長くしすぎず、利用者が1枚で読み切れる量に収めます。契約や個人情報の扱いで判断に迷う点は、法務の担当者や専門家に確かめてください。
ガイドラインのチェックリストで抜けを確かめる
AI事業者ガイドラインの詳細ページには、付属資料としてチェックリストとワークシートが掲載されています。作った権限の一覧と利用ルールをこれらと見比べて抜けを探しておくと、法務やセキュリティの担当との確認が早く片づきます。
白書によると、日本では全社的な指針やガイドラインを整備していると答えた割合が41.1%で、ほかの取り組みの回答を上回りました。一方、ほかの3か国では、製品やサービスの企画・導入段階での専門的な審査体制や、導入後の定期的な評価・検証があると答えた割合が日本より高い傾向にあります。ルールを作って終わりにせず、本番後に誰がいつ見直すかまで決めておけば、この差を埋める足がかりになります。
参考:AI事業者ガイドライン(第1.2版)本編(総務省・経済産業省)
部署へ広げる順番を決め、運用の担当を置く
本番に入ったら、利用する部署を順番に広げつつ、運用の担当を決めて、指示や手順の変更、効果の記録、利用者からの問い合わせを1か所で受けます。運用の担当がいないAIエージェントは業務の変更に追いつけず、やがて使われなくなります。
展開は部署ごとに引き継ぎ資料をそろえて進める
同じ業務を持つ別の部署に広げるのは、試行した部署の本番運用が落ち着いてからにします。全社へいっせいに配ると、部署ごとに違う手順や例外に対応しきれず、運用の担当が問い合わせの山を抱えます。
次の部署には、手順書、利用ルール、権限の一覧と一緒に、試行した部署のつまずきの記録を渡します。どこで迷い、どの指示が効いたかがわかれば、次の部署は同じ場所で足を取られません。
運用の担当が持つ仕事を決める
運用の担当とは、本番に入ったAIエージェントを持ち続け、指示や手順の変更、効果の記録、利用者からの問い合わせを引き受ける人のことです。業務部門と情報システム部門のどちらに置くかは、変更の多くが業務の手順にかかわるのか、接続の設定にかかわるのかで決めます。
運用の担当が受け持つ仕事は、次の6つです。
- 指示や手順を変えたときの記録
- 変える前の版の保管
- 月ごとの効果の記録と、主管への報告
- 利用者からの問い合わせと、想定と違う動きの報告の受け付け
- 権限の一覧の更新
- 四半期ごとの見直しの準備
担当を1人に固定すると、休みや異動のたびに止まります。正と副の2人を決め、記録の置き場所を共有しておきましょう。
使い方を共有する場をつくる
AIエージェントは、配っただけだと一部の積極的な利用者しか使わないまま止まることがあります。白書は、AI活用の先進企業が活用環境の整備で終わらせず、活用ユースケースの収集や社内展開、定期的なワークショップの開催などを通じて、会社全体への浸透を実現していると紹介しています。
同じ白書には日清食品グループの取り組みも載っています。生成AIの活用効果を見込める業務を部門ごとに選び、プロンプトのひな形を作って効果を測る取り組みを少しずつ社内に広げた結果、社内の生成AI利用率が直近で7割を超えたという内容です。AIエージェントの場合も、部署ごとに使い方の型と効果の記録をそろえて共有していく進め方が参考になります。
月ごとの振り返りで2件目に進むかを決める
本番に入ってからも、試行と同じ評価表の指標を月に1回記録し、主管と運用の担当で振り返ります。作業時間、人が直した割合、確認にかかった時間を月ごとに並べると、業務の変更や利用者の増加で出力の質が落ちていないかが見えてきます。
指標が落ち着き、手順書と利用ルールが担当の交代に耐える形になったら、2件目の業務を選びます。白書の中で国立情報学研究所の佐藤一郎教授は、AIエージェントの活用に向けてはデータの精度と鮮度がより重要になると指摘しています。2件目を選ぶ際は、対象業務のデータが整っているかも条件に加えてください。利用件数が伸びない、出力が使われていないといった兆しが出たら、症状ごとに原因を切り分けて立て直します。
関連記事:AIエージェントを活用できない原因と立て直し方|症状別の切り分け手順
参考:令和8年版情報通信白書 第Ⅰ部第2章第1節 企業におけるAI利用の現状(総務省)

よくある質問
AIエージェント導入の主管はどの部署が担うべきですか?
1件目は、対象業務を持つ業務部門に主管を置き、DX推進の部署か情報システム部門が補佐に回る形が進めやすくなります。試行の結果を評価できるのは、業務の中身を知る人だからです。2件目以降の展開では、DX推進の部署が取りまとめる形に移しても構いません。
AIエージェント導入の稟議には何を書けばよいですか?
対象業務を選んだ理由、効果の見積もり、費用、リスクと止め方の4つを書きます。効果は月の件数、1件あたりの時間、人が確かめる時間で組みます。稟議を試行と本番の2段に分け、試行の稟議で期間と上限額を区切ると、最初の承認を得やすくなります。
試行の結果はどうやって判定すればよいですか?
試行の前に評価表を作り、期間の終わりに判定会を開いて決めます。人が直した割合と、確認の時間を含めた作業時間を見て、本番に進む、直して再度試す、範囲を縮める、見送るのいずれかを選びます。結論と理由は、本番の稟議に引き継ぎます。
本番に入ったあと、運用は誰が担当しますか?
指示や手順の変更、効果の記録、問い合わせの受け付けを引き受ける運用の担当を決めます。変更の多くが業務の手順にかかわるなら業務部門、接続の設定にかかわるなら情報システム部門に置きます。休みや異動で止まらないよう、正と副の2人を決めておきます。
まとめ
AIエージェントの導入を社内で進めるには、作る技術の手順とは別に、主管と関係部署の役割、稟議の材料、試行の判定、権限と利用ルール、運用の担当を決めておく必要があります。主管を置いて役割を1枚の表にまとめ、試行と本番の2段に分けた稟議で承認を取る流れが、進め方の骨組みです。
試行では評価表を前もって作り、判定会で本番に進むか、直すか、縮めるか、見送るかを決めます。本番の前には権限を必要最小限に絞って一覧にし、人が確かめる工程を手順書に書き込みます。本番に入ったら正副2人の運用担当を置き、月ごとの振り返りで2件目に進むかを見極めます。
手始めに、関係部署の役割の表を作り、各部署の責任者の名前を書き入れてみてください。
役割の表と評価表の案がそろったら、お問い合わせからその内容を送ってください。試行の稟議に何が足りないかを、手元の資料をもとに一緒に詰めていきます。
AIを使える人材が社内にいない場合
社内で通す順番は見えた。でも、評価表をつけながら関係部署を回る役を引き受けられる人がいない。
判定会の準備や、展開先の部署へ渡す引き継ぎ資料づくりは、通常業務の合間に片づけるには量が多く、試行が終わる前に手が回らなくなるのではないでしょうか。malnaでは、AI活用の実務経験を持つ人材をご紹介するAIタレント名鑑を運営しています。採用ではなく業務委託として、週1日から相談いただけます。

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