近年、SaaS企業の数は増加の一途を辿っており、競争も激化しています。「マーケティング施策を打っているが成果が出ない」「どのチャネルに投資すべきか分からない」といった声を、私たちもクライアント企業からよく耳にします。
SaaSビジネスは、従来の買い切り型ビジネスとは異なる特性を持つため、マーケティング戦略も独自のアプローチが求められます。
特に、継続的な収益モデルであるサブスクリプション型のビジネスでは、顧客獲得コスト(CAC)と顧客生涯価値(LTV)のバランスが事業の成否を大きく左右します。
本記事では、SaaS企業が押さえておくべきマーケティングの基本的な考え方から、具体的な戦略立案の手順、効果的な施策の選び方、そして実際の成功事例まで、実践的な内容をご紹介します。
これからSaaSビジネスのマーケティングに取り組む方、既に取り組んでいるが成果に課題を感じている方は、ぜひ参考にしてください。
malna(マルナ)では、SaaS企業のマーケティング支援を数多く手がけてきました。戦略立案から施策実行まで、包括的にサポートいたします。
目次
SaaSビジネスにおけるマーケティングとは
SaaSビジネスにおけるマーケティングは、単に新規顧客を獲得するだけの役割ではありません。事業フェーズや組織体制によって、マーケティングが担うべき役割は多岐にわたります。
マーケティングの役割
SaaS企業におけるマーケティングは、単にリードを獲得するだけでなく、事業成長を多角的に支える重要な役割を担います。ここでは、マーケティングが果たすべき3つの主要な役割についてご説明します。
パイプライン創出(アポイント創出)
マーケティングの最も基本的な役割が、営業パイプライン(アポイント)の創出です。この役割を理解する上で、「The Model」という営業プロセスのフレームワークが参考になります。
The Modelとは、営業プロセスを「マーケティング」「インサイドセールス」「フィールドセールス」「カスタマーサクセス」の4つに分業し、各部門が専門性を発揮することで効率的に収益を上げる仕組みです。
このモデルは、Salesforceが実践し、現在では多くのSaaS企業が採用している手法として知られています。
この分業体制において、マーケティング部門は見込み顧客との最初の接点を作り、質の高いリードを創出する役割を担います。
具体的には、Webサイト、広告、コンテンツマーケティング、イベントなどを通じて潜在顧客を発掘し、リードとして獲得します。
獲得したリードは、インサイドセールスに引き渡され、電話やメールでのコミュニケーションを通じて商談化を目指します。この際、マーケティングはリードのスコアリングや行動履歴を共有し、インサイドセールスが優先的にアプローチすべきリードを明確にすることで、効率的なアポイント創出をサポートします。
The Modelの導入により、各部門が専門性を発揮しながら連携することで、リードから受注までのプロセスが可視化され、ボトルネックの特定や改善が容易になります。
PR(広報活動)
マーケティングのもう一つの重要な役割が、PR(PublicRelations)です。PRは、短期的なリード獲得だけでなく、中長期的な事業成長を支える基盤となります。
PRに関しては説明すると長くなるため今回は細かい手法などは割愛させていただきますが、具体的にPRがもたらす3つの効果はこちらでご説明します。
採用力の強化
SaaS企業にとって、優秀な人材の獲得は事業成長の生命線です。企業の認知度が高まり、ブランドイメージが向上することで、採用活動において大きなアドバンテージを得ることができます。特にエンジニアやマーケター、セールスといった専門職の採用では、企業の知名度や評判が応募者の意思決定に大きく影響します。
メディア露出やソーシャルメディアでの情報発信、業界イベントへの登壇などを通じて、「この会社で働きたい」と思われる企業ブランドを構築することが重要です。
資金調達の円滑化
スタートアップフェーズのSaaS企業にとって、資金調達は事業成長の重要なマイルストーンです。投資家は、プロダクトの優位性だけでなく、市場での認知度や評判も評価の対象とします。
プレスリリースの配信、メディア掲載、業界内での評価向上などのPR活動により、投資家からの注目度が高まり、資金調達の成功確率が向上します。
マーケティング施策の効果増大
ブランド認知が高まることで、あらゆるマーケティング施策の効果が向上します。例えば、広告を見た際に「聞いたことがある会社だ」と認識されることで、クリック率や問い合わせ率が向上します。また、SEOにおいても、ブランド名での指名検索が増えることで、オーガニックトラフィックの増加が期待できます。
つまり、PRへの投資は、他のマーケティング施策の費用対効果を高める”レバレッジ”として機能するのです。
プロダクト開発との連携
マーケティングの3つ目の重要な役割が、プロダクト開発への貢献です。特にプロダクトマーケットフィット(PMF)を目指すフェーズでは、この役割が極めて重要になります。
プロダクトマーケットフィット(PMF)とは、「適切な市場に対して、その市場が必要とするプロダクトを提供できている状態」を指します。PMFを達成するためには、市場のニーズを深く理解し、それをプロダクトに反映させる必要があります。
マーケティング部門は、顧客インタビュー、市場調査、競合分析などを通じて、以下のような情報をプロダクト開発にフィードバックします。
PMF達成後も、市場環境は常に変化します。競合の新機能リリース、顧客ニーズの変化、新たな技術トレンドの登場など、様々な要因によってプロダクトの改善が必要になり、マーケティングがその旗振り役となることも少なくはないです。
SaaS会社のマーケティング戦略とは

ここからは、主にSaaS企業が「パイプライン創出(アポイント創出)」を目的としたマーケティング戦略を立案する際の具体的な手順をご紹介します。
N1を特定する
マーケティング戦略の第一歩は、理想的な顧客像である「N1」を特定することです。N1とは、自社のプロダクトを必要としており、かつ高い価値を感じてくれる顧客のことを指します。
N1を特定する際は、以下のような観点で分析します。
- 業種/業界
- 企業規模(売上高、従業員数)
- 部署/役職
- 抱えている課題
- 意思決定プロセス
- 予算規模
- 導入後の継続率
例えば、「従業員50〜300名の成長期にあるIT企業で、採用を強化したいが人事担当者のリソースが不足している企業」といった具体的なペルソナを設定します。
既に顧客がいる場合は、LTV(顧客生涯価値)が高く、解約率が低い優良顧客の共通点を分析することで、N1の特徴が見えてきます。
N1が所属するTAM/SAM/SOMを出す
N1が特定できたら、次に市場規模を算出します。
目的としてはN1が複数あるケースは多いので、事業規模を知ることでどこから攻めるべきなのかが見えてきます。
市場規模は以下の3つの指標で整理します。
TAM(Total Addressable Market:獲得可能な最大市場規模)
理論上、全ての制約がない場合に獲得できる最大の市場規模です。例えば「日本国内でマーケティング組織のある会社」といった広い定義になります。
SAM(Serviceable Available Market:実際に獲得可能な市場規模)
自社のサービス提供範囲内で獲得可能な市場です。例えば「日本国内のマーケティング組織があり、Xというサービスを活用している会社」など、ターゲットを絞った市場規模を指します。
SOM(Serviceable Obtainable Market:実際に獲得を目指す市場規模)
競合状況やリソースを考慮し、現実的に獲得を目指せる市場規模です。例えば「日本国内のマーケティング組織があり、Xというサービスを活用している会社のうち、3年で10%のシェアを獲得」といった具体的な目標になります。
これらを算出することで、前項で算出したN1の中で、事業の成長可能性と現実的な目標設定を見てどこを攻めるべきかが見えてきます。
LTVよりCACを逆算する
前項までで、どの市場を攻めるかがきまったと思うので、具体的な許容数値の算出です。
SaaSビジネスの健全性を測る最も重要な指標が、LTVとCACのバランスです。
LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)
1顧客が契約期間中に自社にもたらす利益の総額です。
計算式:LTV = 月額利用料 × 粗利率 × 平均継続月数
例)
月額利用料:30,000円
粗利率:80%
平均継続月数:24ヶ月
LTV = 30,000円 × 0.8 × 24 = 576,000円
CAC(Customer Acquisition Cost:顧客獲得コスト)
1顧客を獲得するためにかかるコストの総額です。
計算式:CAC = (マーケティング費用 + 営業費用) ÷ 新規顧客獲得数
一般的に、SaaSビジネスではLTVがCACの3倍以上あることが健全な状態とされています。
つまり、上記の例であれば、CACは192,000円以下に抑える必要があります。
CACから許容CPAを算出する
前項で、許容できるCACが出せるため、逆算的にマーケティングチームの目標である、1件あたりのパイプライン創出(アポイント創出)にかけられるコスト = 許容CPA(Cost Per Acquisition:商談獲得単価)が算出できます。
計算式:許容CPA = CAC × 商談→受注率
例)
CAC:192,000円
商談→受注率:25%
許容CPA = 192,000円 × 0.25 = 48,000円
つまり、1件の商談を48,000円以内で獲得できれば、事業として成立することになります。
CPAを許容できる施策を選択してPDCAサイクルを回す
許容CPAが算出できたら、その範囲内で成果が出せる施策を選択し、実行していきます。
ただし、初期段階では試行錯誤が必要なため、小規模にテストを行い、効果が見込める施策に予算を集中させるアプローチが重要です。
PDCAサイクルを回す際のポイント:
- 複数の施策を同時に小さく始める
- 週次・月次で効果測定を行う
- CPAが許容範囲内の施策には予算を増やす
- 効果の薄い施策は早期に撤退する
- 成功パターンを横展開する
具体的な施策に関しては本記事ではご説明できませんが、このサイクルを継続的に回すことで、自社に最適なマーケティングミックスが見えてきます。
SaaS会社のマーケティング戦略の成功事例は?
ジョーシス

出典:ジョーシス株式会社
弊社がマーケティングに関して伴走支援させていただいており、数億円の売上成長に貢献しております。
日本発のグローバルソフトウェア企業を目指しており多国籍企業なため、国ごとに合わせて施策を打っていく必要があります。
Webサイト集客・広告運用・イベント運用などに関して、各チャネルごとにそれぞれ方針を決め、決めた方針に沿って実行するために適切にプロジェクトを管理を進めることで成果を残しております。
参考記事 : https://malna.co.jp/case/josys/
HERP

出典:株式会社HERP
採用領域のさまざまなステークホルダーに向けて複数のサービスを開発・提供しているHRTech企業であり、その中でも弊社は「ジョブミル」と呼ばれるサービスの集客支援をしております。
コンテンツマーケティングに力を入れており、ウェビナー/ホワイトペーパー作成などを効率的に進め、継続的な集客に繋げています。
参考記事 :https://malna.co.jp/case/herp/
SALESCORE

出典:SALESCORE
営業組織向けのSaaSを展開しており、セールスイネーブルメントという比較的新しい市場において独自のアプローチにより差別化を図り、着実に事業を拡大しております。
Web広告・イベント・ウェビナーなどを精力的に行っており、複数施策を並行して行いつつ、効果測定の結果に応じて細かく施策にチューニングをかけるており、弊社はMOps的な動き(マーケティングオペレーション担当者)を担当し、成果を出しております。
参考記事 :https://malna.co.jp/case/salescore/
さいごに
本記事では、SaaS企業のマーケティング戦略について、基本的な考え方から具体的な戦略の進め方、実際の成功事例までご紹介しました。
改めて、SaaSビジネスのマーケティングで重要なのは、以下の3点です。
- LTVとCACのバランスを常に意識する
- 事業目標から逆算してKPIと予算を設定する
- 小さくテストし、効果のある施策に集中投資する
市場環境や競合状況は常に変化するため、一度成功した施策に固執せず、継続的に改善を続けることが成功の鍵となります。また、マーケティングだけでなく、営業やカスタマーサクセスとの連携を強化し、組織全体で顧客獲得から継続までのプロセスを最適化していくことも重要です。
malna(マルナ)では、SaaS企業のマーケティング支援を数多く手がけてきました。戦略立案から施策実行、PDCAサイクルの運用まで、包括的にサポートいたします。SaaSビジネスのマーケティングでお困りの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
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